日本の道路で走るには、まさにジャストとも言えるサイズ感のフォルクスワーゲン(以下、VW)「T-クロス」。日本導入は2020年から始まり、SUVという流れにも乗って3年連続で輸入SUV登録台数No.1(自社調べ)を獲得しているという人気モデルだ。
ヒットの理由は手頃なサイズ感に加え、ドイツ流儀の充実した先進安全装備や同クラスの国産SUVを越える上質な走行フィールが支持された結果だろう。その人気モデルのマイナーチェンジモデルが「329万9000 円~」というプライスタグを掲げて日本へ上陸。エクステリアやインテリアをさらに磨き上げた改良モデルは、人気をさらに加速できるのか? シリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」。今回は自動車ライターの佐藤篤司氏がVWのT-クロスをレポートする。
しっかり感を向上させたドイツ車らしい走り
ドイツのフォルクスワーゲンといえば今、国内の3工場閉鎖、数万人の人員削減などの合理化案を発表したばかり。VWにとって国内工場の閉鎖は87年の歴史の中で初めてのことだけに、その衝撃は大きく、いまも混乱の中にあります。やはりEVシフトで多くのEVモデルを投入したまでは良かったのですが、結局は中国製EVの安売りに対抗できなかったことにも、その一因がありそうです。
「出来ることならエンジン車についても“もう少し親身になって”ほしかった」などと考えながら、マイナーチェンジによって各所がブラッシュアップされ、魅力も向上した新型「T-クロス」をドライブしていました。
最初に種明かしをすれば、本当にVWのエンジン車は出来がいいのです。T-クロスといえばVWのラインアップの中でもっともコンパクトなSUVです。国産車のトヨタ・ヤリスクロスや日産・キックス、そしてホンダ・ヴェゼル、出たばかりのスズキ・フロンクスあたりが、同じBセグメントに属します。つまり日本国内においても実に扱いやすいサイズ感なのです。ちなみにエンジンを搭載したVWのSUVにはT-クロスよりひとまわり大きな「T-ロック」、さらにひとまわり大きく、新型が出たばかりの「ティグアン」といったモデルが並びます。その中でT-クロスは売れ行きにおいて輸入車SUVをリードする存在です。
その理由はサイズ感が日本の交通状況にピタリとはまること。VWにはT-クロスのベースとなったハッチバックの「ポロ」というコンパクトハッチバックがあり、路地裏や混雑した道路でもストレス無く駆け抜ける事ができます。正直「ポロこそVWの良心」といえるほど良くできています。そのポロをSUV化したとも言えるT-クロスは、サイズ的にはわずかに大きいのですが、抜群の扱いやすさはそのままに、いえアイポイントが高くなった分だけ、より見切りが良くなり細々とした状況を走り抜ける事ができます。
さらに隅々までかっちりと作り込みが行われ、同時にドイツ車らしい走りでも上質さを感じます。ステアリングを握り、走り出すと同時にタイヤのユニフォミティ、つまりタイヤの均一性というか丸さをしっかりと感じながら走る心地よさがあります。実はこれ、クルマの走り味を決定する上でとても重要なことで、サスペンションのセッティングやボディの剛性によって、同じタイヤを装着していても大きな差が出ます。ごくごく普通に走っているときにとても心地いい走りをT-クロスは実現してくれます。その心地よさはコーナリングでもアップダウンの路面でも、高速道路でも変わりなく継続し、結果的に上質な走りをつねに味わえるのです。