圧倒的な規模に成長した中国の太陽光パネル産業
最も深刻な副作用を指摘すると、それは中国企業が品質落とさず、強烈なコストダウンを進めることで、国際競争力を高めてしまうことだ。
歴史を振り返ってみると、米国政府は2012年10月、中国から輸入される太陽光パネルに対して、反ダンピング、反補助金政策を発動、最大で約250%にも及ぶ制裁関税を適用した。その後も現在に至るまで米中間の太陽光パネルを巡る貿易摩擦は解消されていない。しかしこの間、中国企業は欧州など米国以外の市場開拓を加速すると同時に、国内では激しい過当競争を繰り広げ、結果として国家全体で産業競争力を強化している。政府による積極的な支援策の効果も加わり、今やグローバルで中国の太陽光パネル産業は圧倒的な規模となっている。
国別の太陽光発電量(EIA)をみると、2012年時点で中国は、ドイツ、イタリア、スペイン、米国、日本に次ぎ世界で第6位であったが、2016年には世界最大に躍り出ており、2022年時点の発電量は416TWhで第2位米国の2倍の規模までその差を広げている。
ちなみに、太陽光パネルの米国への輸出に関してだが、カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナムなどを経由して中国製品が米国市場に広く出回っているようで、バイデン政権は現在もその対応に苦慮している。
代わり映えしない追加関税政策、デカップリング政策ではこの先、行き詰まるのは目に見えている。米国国内に製造業を回帰させ、学歴が低くともある程度の給料が得られる職をたくさん作り、国民全体で企業が勝ち取る収益をもっと平等に、広く分配できる社会経済システムを作ることが有権者の望みであるのなら、逆に、政治力を発揮して、中国から投資を引き出させた方がよさそうだ。一方で、中国にもっと自由化、特に米国が強みを持つ金融面での自由化を強力に迫るなど、中国市場における米国企業のビジネス環境を改善させる。自国市場を守ることよりも、他国市場を攻めることを考えたほうが健全だ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。