デジタル化に対応できない地方のクリニックへの死刑宣告
さらに言えば、私は一連のマイナ保険証問題で政府の「地方無視」に失望している。マイナ保険証のICチップの読み込み機械を導入することも含めて、デジタル化にアジャストできるのは大都市の施設だけである。地方の小さなクリニックに、どうやって専門機器やシステムを導入しろというのか。埼玉のトカイナカに住む私は、地元のクリニックがマイナ保険証導入について行けず廃業してしまうのではないかと心配でならない。
石破茂首相は総裁選時に「紙の保険証との併用も選択肢として当然」と言っておきながら、先の衆院本会議の代表質問(10月7日)では「現行の健康保険証の新規発行終了については法に定められたスケジュールにより進めていく」と明言した。デジタル化に対応できない地方のクリニックへの死刑宣告に等しい言葉である。
本来、マイナ保険証など「持ちたい人は持てばいい」という類の話で、強制するものではないはずだ。政府の愚策で病院難民になる患者が出ないことを祈るばかりである。
【プロフィール】
森永卓郎(もりなが・たくろう)/1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。近著に『身辺整理』(興陽館)『投資依存症』『書いてはいけない』(ともに三五館シンシャ)など。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。
※週刊ポスト2024年12月6・13日号