「年収103万円の壁」の引き上げは実現するのか。玉木雄一郎・国民民主党代表が掲げる減税策の“最大の壁”となっているのが財務省だ。その“玉木減税潰し”の工作は、与党や地方自治体、そしてメディアや野党にまで及ぶと見られている。その中心にいるのは、一体誰なのか。【前後編の後編】
財務省の減税潰し工作の司令塔とされるのが新川浩嗣・事務次官だ。その新川次官は石破首相がAPEC首脳会議に出発する直前、11月12日と13日の両日にわたって加藤勝信・財務相とともに官邸を訪ね、首相と膝をつき合わせて減税問題を協議している。
「総理の外遊中にある与党と国民民主との減税協議の対応を確認する打ち合わせと見ていい。減税で地方財源に深刻な影響が及ぶと説明し、国民民主の要求をどこまでなら飲めるかという腹合わせでしょう」(財務省関係者)
その新川次官の指示で“減税潰し”工作を担っているとされるのが、寺岡光博・総括審議官と藤崎雄二郎・官房審議官を中心とする財務省の“特命チーム”だ。
「菅・岸田政権で秘書官を務めた寺岡さんは口八丁手八丁で、他が思いつかないようなディープな工作も厭わないタイプ。藤崎さんは全体の絵図面を描くのが得意で即断即決型。政治家に財政政策を説明するのもうまく、“小泉進次郎総理”が誕生していたら総理秘書官になると目されていた人物です。減税問題で議員レクの先頭に立っている主税局の幹部たちは、主に2人と相談しながら動くかたちです。その“実働部隊”となっている主税局幹部は、青木孝徳・主税局長と坂本成範・総務課長らが中心となって宮沢洋一・税調会長と減税阻止工作について謀っている」(財務省中堅)
玉木減税を値切るシナリオは、こうした財務省の特命チームの工作の一環とみられている。
財務省に聞くと、「通常の業務として、国会議員等の求めに応じ、事実関係等についてご説明を行なっている。ご指摘のような(新川次官、寺岡氏、藤崎氏が中心となって減税反対工作を行なっている)事実はありません」(広報室)と答えた。
その財務省と連携して動いているのが総務省だ。
減税をめぐっては全国知事会が地方の減収を理由に反対を表明したが、その背後で、村上誠一郎・総務相から知事会に反対するように依頼していたと玉木氏が暴露し、知事会の反対の緊急提言などまで作成されていたことが報じられた。
総務省に聞くと、「大臣から知事会に働きかけをした事実はない。提言文書については、作成に至る詳細も経緯も把握していない。財務省からの働きかけもない」(市町村税課)と回答したが、元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授はこう言う。
「国税を所管する財務省と地方税を所管する総務省は税制に関して常に連携しています。政府税制調査会の事務局は財務省と総務省だから両省の税務担当者は日常的に一緒に仕事をしているんです。今回の件も、財務省が『103万円の壁引き上げで地方財源が減るよ』と一言言えば、総務省は財源を失うわけにはいかないから躍起になって動き出すのです」
加えて、財務省の工作の“標的”には立憲民主党も含まれているという。
高橋氏はこう語る。
「野田氏は国民民主に対抗するように『より深刻なのは130万円の壁のほうだ』と主張し、新聞・テレビまで同調している。これは財務省にはありがたい援軍です。というのも、103万円の壁は所得税・住民税の減税の話だが、130万円の壁は社会保険料負担の議論で、意味が全く違う。それをごちゃ混ぜにすることで減税から議論をそらせる。財務省の常套手段です」
減税を阻止したい財務省と、その走狗となって踊らされている与野党。これは国民への裏切りそのものではないか。
■前編記事:【財務省による“玉木減税を潰せ”工作】国民民主党に譲歩したふりで「103万円」から“少額上乗せ”で着地シナリオ 落とし所が「128万円」なら「減税額が3分の1」に
※週刊ポスト2024年12月6日・13日号