社内教育は20世紀の工業化社会の“残骸”でしかない
これはまさに「第4の波」時代の人事戦略である。
日本企業は新卒者を採用して社内で教育してきたが、「いま必要とされているスキル」「即戦力になる人材」は、従来の社内教育や社員研修ではつくれない。
なぜなら、社内には過去10年のやり方を教えられる社員はいても、今後10年必要となる武器を教えられる社員は(おそらく)いないからだ。社内教育は20世紀の工業化社会の“残骸”でしかないのである。
さらに言えば、AIが人間の知能を上回る「シンギュラリティ」が、これから様々な分野・業種に広がっていくことは間違いない。となれば、多くの仕事で人間はAIに取って代わられ、会社の中は不要な社員だらけになってくる。今後は、そういう事態を前提にした人材育成・採用戦略が必要不可欠なのだ。
もし、私が大企業の人事部長だったら、人材を3分化する。まず、今いる社員を3分の1に減らし、残った人たちを丁寧に育てる。会社の伝統や理念、哲学、文化を守る人間は必要だからである。次は、他社の優れたスキルを持った副業人材を「時間買い」する。そして3つ目は、総務や経理だけでなく研究開発やマーケティングなどもアウトソーシングするか、AIに任せる。そういう時代が間もなくやってくるだろう。
ところが、日本の大半の学校と企業は、そんな近未来を全く見ていない。学校は、約10年に一度しか改訂されない文部科学省の学習指導要領に従った古いカリキュラムを墨守するばかりだ。企業の多くは、新卒者を一括採用して昔ながらの社内教育を続けている。
このままいくと日本人は「第4の波」に世界で最も乗り遅れ、日本は衰退の一途を辿るしかないだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年12月6・13日号