日本政府は“ダメ組織”の典型
その一方で、経済再生担当大臣が感染症危機管理担当や全世代型社会保障改革担当を、国家公安委員長が国土強靭化担当や領土問題担当を兼務しているのは、開いた口がふさがらない。感染症対策や社会保障改革は厚生労働大臣、国土強靭化は国土交通大臣、(外国と係争中の)領土問題は当然、外務大臣が担当すべきである。
とにかく担当大臣は兼務する分野がカオス状態で、何が何だかさっぱりわからない。
なぜ、こんなことになっているのか? 役所が本来やるべき仕事をしていないからである。首相は「こういう政策で新しい看板を立てたい」と思ったら、その分野を所管している役所と協議し、弱い部分があればそこを重点的に強化すればよいのである。役所の側も、足りないところは担当課長を置くなりして強化するので自分たちにやらせてほしい、と言うべきである。それをしていないから担当大臣が濫造されているのだ。
私は、企業経営に関して「優れた経営者は1つのことだけを言う」「ダメ経営者は次から次へと新しい命令を出して結局、何もできない」と指摘してきた。“ダメ経営者”の下では、いくら部署を新設しても企業は成長しないばかりか、従来の部署で働いていた社員がスポイルされてやる気をなくしてしまうのだ。すなわち、今の政府は“ダメ組織”の典型なのである。
(大前研一・著『新版 第4の波』より一部抜粋して再構成)
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。新刊『新版 第4の波 AI・スマホ革命の本質』(小学館新書)など著書多数。