茨城県つくば市の郊外にある「ステーキ居酒屋チャンプ」。ここは、「負債4億円」から引退後の第2の人生をスタートさせた元プロレスラーの田上明氏が、夫人とともに営む「最後の砦」だ。プロレスファンなら誰もが興奮しそうな懐かしい写真がびっしりと飾られた店内で、フリーライターの池田道大氏が、田上氏の「引退後の日々」について話を聞いた。(文中一部敬称略)【前後編の後編】
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全日本プロレスとプロレスリング・ノアでそれぞれヘビー級王座に君臨して一世を風靡するも、ノア・三沢光晴社長の急死で急遽社長に就任し、経営が悪化したノアが事業を譲渡した際に4億円の負債を背負って自己破産。困窮する家計を助けるため55歳にして配送仕分けのアルバイトに励み、新しい一歩を踏み出そうとしていた矢先の2018年3月、元プロレスラーの田上明は自宅で倒れ、救急車で搬送された。
「胃潰瘍になって大量出血したんだけど、俺、不整脈があって血をサラサラにする薬を飲んでいたから血が止まらなかった。血圧がガーッと低くなって、家族まで呼ばれてヤバいなーって。400ccの血液パック5袋分を輸血して何とか一命をとりとめたよ」(田上・以下同)
だがこれで一件落着とはいかなかった。術後に医師から、「胃がんです。胃の真ん中にがんがあるから、お勧めは全摘です」と告げられたのだ。
「医者が軽い感じで告知するから、ええっ!!って驚いた。1か月半後に手術を受けて胃を全摘した。体重が15キロほど減り、食が細くなったね」
自己破産からがん発覚という最悪の流れだったが、ノア社長就任からの転落人生はようやくここで底を打ったようだ。
夫人と切り盛りする「最後の砦」
がんサバイバーである田上を支えているのが、茨城県つくば市で経営する「ステーキ居酒屋チャンプ」だ。そもそもこの土地では田上の妻である清美さんが居酒屋やちゃんこ料理屋をやっていたが、のちにステーキ居酒屋に業態転換した。田上の名義ではなかったため、自己破産後財産没収を免れた「最後の砦」である。
「なんでステーキ屋にしたのかよく覚えていないけど、かあちゃんと話して、ステーキならうまくて安いからいいんじゃないかって。こんな田舎で居酒屋を続けてもしょうがねえし」