閉じる ×
大竹聡の「昼酒御免!」

100年以上の伝統を引き継ぐ琥珀色のハイボール 「浅草たぬき通り」に漂う名門酒場の風格

酒場を楽しむコツは新たな1杯

もちろんハイボール以外のカクテルも絶品。これはマンハッタン

もちろんハイボール以外のカクテルも絶品。これはマンハッタン

 浅草のサンボアでも、同じことを思う。お客さんとバーテンダーとの会話にそれとなく耳を傾けていると、自分が先刻まであれこれ気にしていたことなど一切忘れて、ほのぼのした気分になってくる。私はそのとき、店に届いた夕刊に目を通しながら、松林さんのつくってくれたおいしいマンハッタンを、あっという間に飲み干そうとしているところだった。

 カウンターのお客さんが頼んだのは、會舘フィズだった。戦後、米軍が東京會舘を接収した時代に生まれたという、ミルクでつくるジンフィズだ。私は、この日の昼酒の3杯目を、もう一度ハイボールに戻そうとしていたのだが、思わず口に出していたのはこのひと言。

「ああ、オレも、會舘フィズちょうだい。なんか、話を小耳に挟んでいたら、たまらなく飲みたくなっちゃったよ」

こちらが會舘フィズ

こちらが會舘フィズ

 松林さんも、カウンターでご一緒したお客さんも、同時に笑った。

 サンボアで飲む會舘フィズ。うまかったですねえ。思いついたらいつもの習慣を破って新たな1杯を試すのも、酒場を楽しむコツだ。そんなことを考えた、この日の昼酒でした。

蔦に囲まれた外観も印象的な「浅草サンボア」(東京都台東区浅草1-16-8)

蔦に囲まれた外観も印象的な「浅草サンボア」(東京都台東区浅草1-16-8)

シリーズつづく第1回から読む

【プロフィール】
大竹聡(おおたけ・さとし)/1963年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒。出版社、広告会社、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。酒好きに絶大な人気を誇った伝説のミニコミ誌「酒とつまみ」創刊編集長。『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『愛と追憶のレモンサワー』『五〇年酒場へ行こう』など著書多数。「週刊ポスト」の人気連載「酒でも呑むか」をまとめた『ずぶ六の四季』が好評発売中。

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。