お酒はいつ飲んでもいいものだが、昼から飲むお酒にはまた格別の味わいがある――。ライター・作家の大竹聡氏が、昼飲みの魅力と醍醐味を綴る連載コラム「昼酒御免!」。今回は真っ昼間から活気に溢れる上野のもつ焼き屋から送る。【連載第2回】
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今年の9月は暑かった。いや、7月からずっと暑かった。一歩外に出ただけで熱風が頬を撫で、じわりと汗ばむ。駅で電車を待つ間にも、汗は流れ流れて、エアコンをギンギンにきかせた電車に乗っても汗は容易にひかない。そこに加えて、痛風持ちのこの私、日ごろより水を大量に飲むべしと医師の指導を受けているので、自宅でも、仕事先でも、移動の車中でも、水を欠かさない。汗が余計に出るのだ。
けれども私は、痛風持ちではあるが、同時に大のつく酒飲みでもある。多くの痛風持ちがそうであるように、酒類をよりうまく飲むためには無駄な水分は避けるべしという長年の習慣ももっている。
考えてもみてほしい。猛烈な暑さに息も絶え絶えになっているからこそ、冷たい生ビールがことのほか心と身体に沁みるのだ。この、身体だけでなく心に沁みるという点にも注目されたい。ビールの前にたっぷりの水を飲んでは、ビールのうまさが半減するだけでなく、心の満足度も得られない。
だがしかし、ただでさえ脱水しやすい酷暑の季節に十分な水分を摂らぬという行為はまさに暴挙だ。痛風発作勃発くらいで済めばいいが、ヘタをすると血がドロドロになって熱中症から脳梗塞、急性心不全、そしてあっけない最期に至るやもしれないのである。なにしろ、アタシももう還暦を過ぎた、爺さんなのである。
てなことを考えながら歩いていたのが、御徒町と上野の間。時刻は午後2時を回ったところ。猛烈に暑い9月某日の昼下がりである。この地域では、昼酒を飲める場所はたくさんある。肉の大山、立ち飲みたきおか、上野の藪蕎麦……。東上野の焼肉屋を覗いてみるのもいい。暑くてへばりそうなくせに、肉や臓物を喰いたいから不思議である。
臓物、と頭に浮かんだ瞬間に、やっぱりあそこにしようと心に決める店の名は「大統領」である。