BEVとしての優位性が商用バンでより際立つ
実用性においてほぼ不満のなかったガソリン仕様でしたが、走行時のエンジン音や乗り心地の荒さについては少し気になりました。660ccの小さなエンジンを普通車などの流れに乗りながら同等に走らせるには、どうしてもエンジン回転が高くなり、エンジン音も大きくなります。さらに積載最優先の商用バンですから、「N-BOX」などといった軽乗用モデルと比べても賑やかです。これは仕方ないのですが、電動化されたN-VAN e:はモーターならではの静粛性によって加速時も実に静か。
最高出力47kW(64PS)のモーターは低速からの力強い加速感と静かでスムーズな走りを実現しています。29.6kWhの大容量バッテリーは一充電走行距離245kmを可能にしました。運転席からはアイポイントも高く、スクエアなボディのお陰もあり、見晴らし良好。もちろん660ccのエンジン車のようなけたたましさはなく、ずっと静かにレスポンス良く速度が上がります。走り出しから「軽自動車こそBEV」と言われる理由が理解できます。ただモーター自体は静かでもあくまでも商用VAN。それなりに走行音や風切り音は感じます。この辺は乗用車として仕上げられた日産サクラ/三菱eKクロス EVの静粛性には敵いません。それでも朝早くの住宅街などでもエンジン音を気にせず走れるのは嬉しいポイントです。
静粛性や力強さの他、走行中に感じた利点といえば、スーパーハイトワゴンという背の高さによる姿勢の乱れが少ないこと。エンジン仕様でもセンタータンクレイアウトは低重心で安定感は高かったのですが、重い駆動用バッテリーを積むことでコーナリングでの左右の揺れ、加・減速時の前後の揺れ、回生ブレーキングでの前のめり感、そして飛び跳ね感などは少なくなって乗り心地はしっとりとしています。確かにBEVとなって車両重量は170kgほど重くなっていますが、トータルでの走りはしっとりとした快適さがかなり増しています。さらにBEVとしての特性に合わせた乗り味のチューニングは、“大切な荷物を運んでいる”という商用VANならではの思いやりも影響しています。結果的に優しくソフトな乗り心地を手に入れています。
そんな快適さ走りは実現できましたが、やはり搭載出来るバッテリーには限界があります。カタログ値の一充電辺り走行距離は245km(WLTCモード)という“足の短さ”は仕方ありません。現実的にはカタログ値の80%とすれば196km。日産サクラ/三菱eKクロス EVが一充電辺り180km(WLTCモード)ですから軽BEVとして考えれば、それでも30%ほどの余裕はあります。ただロングドライブになればエンジン仕様と比べて、充電時間や充電回数が全行程に影響を与えることは確実。50kWの急速充電施設であれば、充電残量警告灯が点灯してから充電量80%まで約30分かかります(気温など諸条件により差があります)。長距離になるほど、この充電時間と回数をドライブプランの中に織り込むことになります。
そうしたBEVならではの問題をクリアできれば、“走る蓄電池”として大活躍。ホンダアクセスの純正アクセサリー、AC外部給電用の「パワーサプライコネクター(2万9700円)」を“普通充電コンセント”につなぐと、最大出力1500Wの電気を車外で取り出せます。また別売の「AC外部給電器(3万7400円)」を装備してキャンプサイトなどにある外部電源設備と接続すると、車内にあるコンセントからAC100Vの電気も取り出せます。窓やドア、テールゲートを閉めたままでも車内でさまざまな電化製品が使用可能。車中泊にも便利です。