「撤退すべきときに損切りができない」「損を取り返そうと無茶な投資」……、株式投資でそうした失敗をする投資家も少なくないだろう。
「持ち株の評価額が1日で普通の人の年収分ぐらい減ることは日常茶飯事ですけど、それでいちいちダメージを受けていては続けられませんよ」というのは東大卒プロポーカープレイヤーの木原直哉氏。個人投資家としての一面も併せ持つ木原氏は、心理的負担のかかる局面にどう向き合っているのか。
木原氏とエコノミストのエミン・ユルマズ氏との共著『「確率思考」で市場を制する最強の投資術投資』(KADOKAWA)より、ポーカーや投資に潜む心理的トラップとその対処法について紹介する。
負けとわかっていても、降りられないトラップ
木原:ポーカーは勝てる見込みの薄いときは降りるという選択が不可欠ですが、この「降りる」という行為は投資の方がより頑張らなければいけないと思います。ポーカーの場合は、勝ったときの利益を最大化することを最優先して、テーブルに置いたチップは全部なくなってもいいという前提でプレーするけど、株の場合はそうじゃない。ゼロにするわけにはいかないので、ポーカー以上に厳しいリスク管理が求められると思います。
エミン:その通りです。ストーリー投資では、その銘柄の成長ストーリーに変わりがないのであれば、相場環境の影響で含み損になったとしても損切りする必要は基本的にありません。ただ、信用取引を使ってレバレッジをかけているとか、短期投資であれば話は別で、厳格な損切りルールが必要です。
木原:僕はベットした挙句に降りるということにはポーカーで慣れているので、損切りそのものが苦しいとは思いませんが、多くの人はそれができずに苦しみますね。
エミン:株式投資家が陥りやすい心理的トラップのひとつに、サンクコスト(埋没費用)トラップがあります。すでにかけてしまったコストの額に固執してしまうことで、合理的な意思決定ができなくなる心理効果です。企業活動でも生じやすく、多額の投資をした事業ほどそれまでに費やした労力やお金、時間が惜しくなってしまい、あきらめがつかずに撤退の判断ができなくなります。
大切なお金を投資したのに損失を出してしまって、当面は上昇する見込みがないというのは、心理的につらいものです。せっかく見つけた投資アイデアが否定されると、まるで自分自身が否定されているかのような感覚になるため、人は間違いを認めず、過去の判断にしがみつくという間違いを起こしやすいのです。こうしたケースでは、待てば待つほどサンクコストが拡大し、傷を深めてしまいます。
木原:これはまさに、ポーカーでよくみかける行動ですね。すでに手持ちのハンドにたくさんのチップを賭けてしまった人は、負けているとわかっていても、今さら降りられないという気持ちになって、フォールドできずに傷を広げてしまいます。