エミン:お金をお金だと思ったらダメなんですよね。たとえば10万円の含み損が出たときに、この10万円があれば旅行に行けたのに、とか、家賃を払えたのにというようなことを考えてはいけません。ますます悔しさという感情に支配されてしまって、正しい判断ができなくなってしまう。
木原:わかります。ゲームのポイントか何かだと思った方がいいですね。僕も持ち株の評価額が1日で普通の人の年収分ぐらい減ることは日常茶飯事ですけど、それでいちいちダメージを受けていては続けられませんよ。
エミン:それはポーカープレーヤーの強みだね。ポーカーはメンタルのいい訓練になるからこそ、私も個人投資家さんにポーカーを勧めていますよ。
とはいえかくいう私も、お金をお金と思わなくなるまでには結構な時間がかかりました。やっぱり人間は感情的な生き物だからね。今でもFXや先物だと、1日で年収ぐらい負けるときもあります。でも、トレードをしていれば勝つ日もあれば負ける日もあるのは当然で、それ以上でもそれ以下でもないんです。
木原:エミンさんの年収だと、さすがにダメージ受けそうだなあ(笑)。まあ、感情のコントロールに自信がないなら、毎日株価をチェックしたりしないで放っておけばいいんですよね。開示だけチェックしながら、ゆっくり配当や優待だけもらっておけばいい。
“残りのチップで最後の大勝負”は悪手だ
エミン:投資家が陥りやすい心理トラップは、まだまだたくさんあります。ポーカーと共通するのは、うまくいっているポジションに対してはむしろリスクを減らそうとして、うまくいっていないポジションに対してはリスクを取りにいってしまうという認知バイアスがあります。
具体的にいうと、利益が乗っている持ち株は本来なら買い増してもいいぐらいなのに、早く売って利益を確定し、リスクを減らそうとする。逆に損失が出ている銘柄であれば、これ以上損失が拡大しないよう早く損切りをした方が有利なのに、それを放置するか、ナンピン(投資した株が値下がりした場合などに、あえて同じ銘柄の株を買い増すこと)というよりリスクの高い行動に出てしまうんです。
ときには借金をしてでも投資資金を増やして損失を取り戻しに行きます。このメンタリティで動いて、すべてを失って相場から退場してしまった投資家を私はたくさん見てきました。
これは疑似確実性効果トラップといって、人は結果が予想通りだとリスクを避けようとしますが、結果が予想と外れたときにリスクを取りに行く傾向があるということです。一般的な投資家は、含み益が出るとより保守的になってリスクを減らそうとするのに対し、逆に失敗したときには必死になって取り戻そうとするあまり、さらなるリスクを取って勝負に出ようとするのです。
これは恐怖心からくるもので、今ある利益を失いたくないという恐怖と、損失を確定するのが怖いという心理が判断を狂わせてしまうんです。木原さんもポーカーテーブルでそういうプレーヤーをたくさん見るんじゃないですか?
木原:いますね。大勝ちしている人は勝ち逃げしようと必要以上にタイト(絞ったハンドのみでゲームに参加するプレースタイル)で保守的なプレーになりやすいのに対し、負けていると自暴自棄になって、残りのチップすべてを一か八かの賭けにさらしてしまう。本来なら負けているときこそ、慎重なプレーをするべきなんですが。