Aさん自身は30代半ばで独立し、店舗では若手の育成も行ってきた。しかし、「いまの若手は、給料を上げても長く居着かない」と苦労しているようだ。
「給料面以上に、直接的なやりがいや、自分の自由がきく労働環境を求める人が多くなっている印象です。まず、下積みが嫌がられます。美容師といえば数年のアシスタント修行を経て一人前になるという慣習がかつてはあり、僕の時代もそうでしたが、今はすぐに現場に出さないと辞めていきます。だから、スキルが上がっていないうちでもドンドン現場に出して、やりながら覚えさせるという感じにならざるを得ない。
ただそうなると次は、早い段階で『独立する』といって辞めていくケースも多くなりました。そういうことが続くと、もう若手を育てる気力もなくなっていきます」(Aさん)
大手信用調査会社「東京商工リサーチ」の調査では、2024年1~11月の美容室の倒産は107件に上り、2000年以降で年間最多となった。そのひとつに挙げられているのが「人件費の高騰」だ。人気スタイリストの引き留めや、新人が早期退職しないよう給料を上げることで、人件費が逼迫するケースが多いという。
「“育てても辞めるかもしれない若手”より“すでに経験値のあるベテラン”を募集する気持ちはわかります」というAさんの店舗では、「人手不足のまま無理やり営業を続けるのもイヤ」という考えから、2年前から定休日を増やして営業している。