相手によって値段が変わることはあるのか
自由に価格設定ができるということでもある“時価”。それならば、客によって値段を変えることも可能ではないだろうか。
「常連さんなど、深く長いお付き合いをしているお客さんに対して、多少おまけすることはあるかもしれません。例えば、同じ大トロでも端と真ん中では品質が少し違うわけですが、『端っこ、安く出せますよ』と提供してくれたり、原価的に可能であれば、少し値段をオマケしてくれたりすることもあるかもしれません。
ただ、逆に『こいつムカつくな』と思って高くつけることは、あまりないと思いますよ(笑)。そんなことをしたら、それこそどんな噂をバラ撒かれるかわかりません」
ながさき氏曰く、「時価を掲げるようなお店で得をするコツ」は、ズバリお店側のことも考えて「お行儀よくすること」。
「私も初めて行ったお店でたくさん頼んでいたら、『今日これ余っているんだけど、いる?』と希少なネタを出してもらった経験があります。お店と良好な関係を築くことが、気持ちよく飲食をする基本です」
“時価”の裏側には、「天然物」という魚の特性と、人の苦労や好意がある。ぜひ、その日、その場にしかない“時価”の味わいを堪能してみてはいかがだろうか。
【プロフィール】
ながさき一生/1984年、新潟県糸魚川市生まれ。株式会社さかなプロダクション代表取締役、東京海洋大学非常勤講師。漁師の家庭で家業を手伝いながら18年間を送る。2007年、東京海洋大学を卒業後、築地市場の卸売会社で働いた後、同大学院で修士取得。2006年からは魚好きのコミュニティ「さかなの会」を主宰。漁業ドラマ『ファーストペンギン!』では監修も務める。著書に『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。