新エネルギー自動車の覇権を握ろうとしているBYD
EV業界最大手のテスラは現在、完全自動運転(FSD)システムの開発、普及に注力している。ハードとしての自動車販売で稼ぐのではなく、頻繁に更新するFSDシステムを顧客に提供するといったソフトウェアのサブスクリプションで稼ぐ収益モデルを確立しようとしている。十分なシェアさえ確保できれば高い収益率を継続的に維持できるからだ。そうした大きな目標があるからこそ、中国市場で価格競争に巻き込まれても、それを克服して低価格車を投入しようとする強いモチベーションがある。
テスラと同様、自動運転技術がこの産業で生き抜くカギだとみているのが、吉利控股集団、蔚来集団、長安汽車、小鵬汽車、理想汽車といった中国メーカーだ。
なかでも注目されるのは、創業直後の1997年にはリチウム電池業界に参入、2003年に小規模な自動車会社を買収するところから自動車産業に参入してきたBYDだ。新エネルギー自動車の生産台数では既にテスラを凌駕する水準にまで規模を拡大させている。
2008年にはウォーレン・バフェット氏から投資を呼び込むなど、株式市場では早くから注目を集めてきた企業であり、2008年にはPHEV、2010年にはEVの生産を開始するなど、開発の歴史は古い。とはいえ長年、中低価格のガソリン車やスマホ用リチウム電池が収益を支えてきた歴史があり、エンジン車生産を完全に廃止できたのは2022年3月になってからである。
地道にリチウム電池製造技術、低コスト車生産技術を磨いてきた成果がここ数年で大きく花開いたといえよう。2021年の自動車販売台数は73万台、2022年は187万台、2023年は302台。2024年1-11月の累計では前年同期比4割増の376台と急速に販売台数を伸ばしている。この高い競争力を以て同社はグローバルでテスラと競い合い、新エネルギー自動車の覇権を取ろうとしている。