日産自動車の内田誠社長とホンダの三部敏宏社長は12月23日、共同持ち株会社設立による経営統合に向けて検討する基本合意書を締結したと発表した。長年激しい競合関係にあった日産・ホンダ両社。突然の統合劇のウラには、第三の巨大な外資の動きがあったという。自動車業界に精通するジャーナリスト・井上久男氏がレポートする。【全3回の第2回。全文を読む】
元ナンバー3の逆襲
事態は急転直下で動いた。そこには第三の外資の動きがあった。台湾の電気機器受託製造大手の鴻海精密工業が日産の買収に向けて水面下で動き始めたのだ。日本では2016年にシャープを買収したことで知られる企業でもある。
鴻海はEMS(電子機器製造サービス)で、米アップルのスマートフォン「iPhone」を生産していることでも有名だ。そして現在は、スマホ後の成長戦略として、AI(人工知能)、半導体、通信の3技術を強化し、EV、デジタル医療、ロボットを次世代の主力ビジネスと位置付けている。
スマホでは、アップルが開発、設計したものを単純に組み立てるだけだったが、現在は「CDMS(受託設計・製造サービス)」を強化し、上流の開発領域から製造までを一貫して担当するビジネスモデルを強化している。
EVでもCDMSを推進する。顧客企業から委託を受け、鴻海が開発したモデルを顧客がカスタマイズし、鴻海は製造するというビジネスモデルで、鴻海ブランドを持つわけではないが、自動車メーカーと同等の技術力が求められる。このため、グローバルに開発・製造拠点がある自動車メーカーを買収するほうが、早くノウハウが手に入ると見て日産に目を付けたと見られる。
「鴻海は根回しで、経済産業省やメーンバンクであるみずほ銀行に対して日産の買収の可否を打診し始めたのが秋頃だったが、いい顔はされなかったようだ」(関係者)
日産側にはルノーの支配から逃れたと思った矢先に再び外資が攻めてくることに拒否感があったようだ。「経産省は、鴻海の創業者である郭台銘氏が中国に近いと見て、経済安全保障上のリスクがあると見たのではないか」(同省OB)との指摘もある。