米国のバイデン大統領は1月3日、日本製鉄による米鉄鋼大手・USスチールの買収を阻止する決定をしたと発表。米国の安全保障などが損なわれる恐れがあると判断したという。「成長へのチャレンジ」を掲げる日本製鉄・橋本英二会長が主導してきた買収劇は、このまま頓挫してしまうことになるのか。
発表されたバイデン氏の声明では「鉄鋼生産は我々の国家の背骨」として、USスチールを自国で所有して運営することが不可欠だとしている。今後、30日以内に買収に関係する取引を「完全かつ永久に放棄」する措置を取るよう命じている。
これに対して日本製鉄側は米政府を相手取った訴訟に踏み切る構えだが、訴訟によって事態を変えられるかは見通せていない。
日本製鉄によるUSスチール買収は、2023年12月に約2兆円が投じられる計画が発表された。その後、全米鉄鋼労働組合(USW)が反対を表明し、大統領選のなかでトランプ氏、バイデン氏の双方が買収計画に反対の姿勢を明らかにしていた。日本企業の対米投資が、米国の政治事情に翻弄された格好だ。
買収計画が発表された2023年12月に日鉄社長だったのが、橋本英二氏(現・会長)だ。USスチールの買収が正念場を迎えていた昨年11月末、週刊ポスト誌上でノンフィクション作家・広野真嗣氏の独占インタビューに応じた橋本氏は、「(USスチール買収は)揉めるのはわかっていたけれど、これは30年、いや50年待っても出てこない千載一遇のチャンス。だから勝負に出た」「過去30年の低成長を脱して、大きな成長に一丸となってチャレンジするのは、日鉄の社会的使命ですよ」と語っていた。