「三段跳び」改革の集大成としての買収提案
橋本氏が日本製鉄の社長に指名されたのは2019年のこと。直後の2020年3月期の連結最終損益はマイナス4300億円で会社は倒産寸前の危機にあった。橋本氏は危機を脱して成長にチャレンジする「三段跳び」の改革に挑んだ。大規模リストラを断行する「ホップ」、トヨタなど大口顧客に対し鋼材を大幅に値上げする「ステップ」、そして今回の買収という「ジャンプ」である。
2022年3月期、2023年3月期は過去最高益を更新し、V字回復を果たしたうえで、集大成としてUSスチールの買収に挑んだわけだ。橋本氏は、海外市場に目を向けることが、日本の国内への循環という意味でも重要だと強調していた。「グローバルで成長し、その利益で全国の工場に投資をする」「成長と分配の好循環を考えるなら、日本の研究開発に投じ、脱炭素をリードする商品力を高めるしかない。それができなければ日本が潰れます」と話している。
今回、これほど険しい展開を迎えたのは、2023年、日鉄にとって千載一遇のチャンスとなるUSスチールの「身売り」が生じたいきさつとも無関係ではない。そもそもアメリカの高炉市場を二分していた最大手クリーブランド・クリフスが買収を仕掛けたことが引き金を引いたからだ。
クリフスのCEOロレンゾ・ゴンカルベス氏はブラジル出身で、目的のためには手段を選ばず、鉄鋼界でのイーロン・マスクの異名を持つ人物。最初から大統領選を見越し、USWのデービッド・マッコール会長とタッグを組んだという見方もある。
マッコール氏は一貫して日鉄による買収に反対し、日鉄に競り負けたクリフスによる再提案を支持してきたからだ。マッコール氏の姿勢は、アメリカの大統領選に影響を与え続け、バイデン氏もこれに引きずられたとみられる。
それでも日鉄はこの間、主要経営陣や取締役会の過半数をアメリカ人にするなど、さまざまな追加提案を打ち込んで米政府の懸念払拭を試みた。さらに昨年12月30日には生産能力の削減にも米政府の拒否権を付与するとまで言及したが、翻意させることができなかった。
異例のかたちで阻止命令が出たUSスチール買収はどのような展開を辿るのか。現在、「マネーポストWEB」では、日本製鉄側の最大のキーマンである橋本会長のインタビュー記事4本を全文公開している。
別記事『【独占インタビュー】日本製鉄・橋本英二会長「USスチールの買収チャレンジは日鉄の社会的使命」、社内の賛否両論を押し切った決断の経緯』などで、海外に打って出て成長にチャレンジする必要性が語られている。