文革前より大きくなった人民解放軍のパワー
橋爪:興味深い分析ですね。
ではここで、毛沢東の文化大革命を通じて、どういう人びとが表に出てきたのかを確認しておきましょう。
第一は、人民解放軍です。軍は本来、党のもとで軍の仕事をしているべきですが、そこからはみ出して、政治の実務に携わるようになった。だから、軍のパワーは、文革前よりも大きくなったはずです。
第二は、文革派です。その代表は、毛沢東の死後に逮捕された「四人組」ですね。こうした革命左派のような人びとが大きな顔をしてのし歩いた。
第三は、文革で打倒されなかった老幹部や実務能力の高い人びと。共産党の中には、そうした人びとも生き残っていた。彼らなしでは、共産党は回りません。
毛沢東は、以上3つぐらいのグループのバランスを考えながら、どこにも肩入れをすることなく、相互を牽制させる立ち位置で指導を続け、権力を維持していました。
前回話題になった林彪による毛沢東暗殺未遂事件など、権力闘争はいろいろありました。それでも、毛沢東を取り巻くいくつかのグループが、党内で勢力争いを続けたというのが、文革の時期の基本的な構図であると言えます。
以上は、このあとの時代を見ていくうえでも、重要なポイントになるのです。
(シリーズ続く)
※『あぶない中国共産党』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。
峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。