現在の中国社会で指導的立場にある人の多くは、1960~1970年代に「毛沢東思想」を徹底的に教え込まれた“文革世代”に当たる。「反腐敗」や「共同富裕」といった毛沢東時代を想起させる政策を掲げる習近平・国家主席も、文革で都市から地方に「下放」された1人だ。かつて中国全土を大混乱に陥れた毛沢東の「文化大革命」とは何だったのか。中国の歴史や文化、社会に精通する社会学者の橋爪大三郎氏と、元朝日新聞北京特派員のジャーナリストでキヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏が読み解く。(両氏の共著『あぶない中国共産党』より一部抜粋、再構成)【シリーズの第13回。文中一部敬称略】
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橋爪:大躍進の傷もようやく癒えかかった1966年、毛沢東は突然、「プロレタリア文化大革命(文革)」を始めました。毛沢東が組織したのは、共産党の外側の「任意団体」である紅衛兵です。彼らが『毛沢東語録』をふりかざし、教員を吊し上げ、街頭をわがもの顔でのし歩き、共産党幹部の批判に押しかけ、政府機関を機能不全に陥れたのです。
労働者階級であるプロレタリアの前衛が共産党で、その共産党が資本家階級(ブルジョワ)を打倒し、革命を進めるのがマルクス・レーニン主義です。ならば、人民・一般大衆が共産党を攻撃するなんて、ありえない運動です。そのありえない運動が起こって、あっと言う間に中国全土に広まった。このことが実に不思議です。
この運動は、どうやって正当化されるのか。
簡単に言うと、「中華人民共和国が成立し、中国共産党が政権を握っても、階級闘争は終わっていないのだ」とすることです。もともと毛沢東は、それっぽい論文を書いてはいました。共産党の内部に「AB団」などの反革命陰謀集団がいるとして、粛清を繰り返してきました。いまもまだ中国共産党の内部に、階級の敵が潜んでいる。共産党を舞台に階級闘争を繰り広げなければならない。そのことに気づいているのが毛沢東だ、という理屈です。だから毛沢東の指示に従わなければならない。
中国共産党の内部に、資本家の手先になっている反革命の党員がいる。彼らは党幹部として、共産党を牛耳っている。みたところは、共産主義者の党員のふりをしている。それを見分けるのは難しい。
だから毛沢東に従う必要があり、毛沢東思想を学んでイデオロギー闘争をしなければならない。そして、共産党に居すわる幹部を打倒するには、毛沢東に忠実な人びとが大衆運動を起こすしかない。これが「文化大革命」です。
毛沢東がマルクス・レーニン主義の解釈権を握っているからこそ、この運動は可能になっている。なにが革命か、誰が革命的かを決めるのは、毛沢東だ。毛沢東と意見が異なれば誰ひとり、共産党のなかで生き残れない。中国共産党は、政治局常務委員の集団指導体制のはずだが、独裁制に変質してしまったのです。