傍流だった橋本氏が日鉄で社長に抜擢されるに至った実績の1つに2014年、ブラジルの鉄鋼大手ウジミナスの再建で見せた豪腕ぶりがある。
共同運営する南米企業との主導権争いのなか、交渉に備え“相手を厳しく非難する英単語”を手帳に書き留めて臨んだ橋本氏が、交渉を成功に導いた。筆者が当時について尋ねると、橋本氏は「そんな言葉を使わざるを得なかった」と述べた。
「相手側が私の発言を捻じ曲げて“こう言った”と述べた時、“それは捏造だ”と言わざるをえない。中南米の会社は文化も違うし、向こうは必ず弁護士もついてくる。日本で普通に鉄を売り買いする時には使わないような強い言葉をしょっちゅう使わざるをえなかったから、勉強したんです」
そうしたタフネゴシエーターの力量がトランプ2.0の舞台で真価を発揮するか。そんな局面を迎える可能性はまだ、消えていない。
■前編記事:【USスチール買収問題】日本製鉄・橋本英二会長が見据えるトランプ氏との“逆転ディール” 鍵を握るのは「追加の“お土産”」と「労働者メリットの明確化」
【プロフィール】
広野真嗣(ひろの・しんじ)/ノンフィクション作家。神戸新聞記者、猪瀬直樹事務所スタッフを経て、フリーに。2017年、『消された信仰』(小学館文庫)で小学館ノンフィクション大賞受賞。近著に『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』(講談社)。
※週刊ポスト2025年1月31日号