米国のトランプ新政権始動を前に注目を集める、日本製鉄によるUSスチール買収計画。任期切れ間近のバイデン大統領による「中止命令」を受けて、悲観的な見方が強まっている。しかし、買収計画を主導してきた日鉄・橋本英二会長兼CEO(69)が、トランプ氏との“ディール”を上手く進めることができれば、逆転を勝ち取る可能性もあるのだ。昨年11月、橋本会長に独占インタビューしたノンフィクション作家・広野真嗣氏がレポートする。【前後編の後編】
「日本敵視」という難題
仮にトランプ氏がバイデン氏の命令を撤回すれば、次のステップとして、外国企業の投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)による再審査が行なわれるかもしれない。
CFIUSは財務省や国務省の閣僚たちから成り、本来の審査期間は2~3か月とされる。ところが本件は1年もかけたのに、委員会の結論はまとまらなかった。
ただ、バイデン政権下のCFIUSが「阻止」一色だったわけではない。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ=4日付)などによれば、ブリンケン国務長官やイエレン財務長官ら国際協調派の政治家は日鉄の計画を認める方向で進言したのに対し、党人派の顧問の意見に背中を押され、バイデン氏は中止命令を決めたと報じられている。
こうなると新政権の布陣がポイントになるが、本来、経済活動の自由への介入に否定的なのが共和党の基本スタンスだ。
昨秋まで共和党上院トップの院内総務を務めた重鎮のマコネル議員は、9日のWSJへの寄稿で「トランプ次期大統領はこれ(中止命令)を失策と認め、逆の行動を取りうる」と書いた。
他方、USスチールのお膝元のペンシルベニア州選出で、一貫して計画に反対だった民主党上院議員のフェタマン氏は中止命令を歓迎する。トランプ氏に最も近い野党議員でもあり、新政権でも挙動が注目されている。
そんなまだら模様の米政界にアンテナを張り、いかにトランプ周辺に潜り込めるか。苦戦続きの日鉄の「ロビーの力量」からすると、いばらの道であるには違いない。