残された愛車との時間、息子とのドライブ旅行
気が付けば自らが免許返納を考える年代になっていた。何ごとも決断すると早い西本さん、78才の時に「80歳になったら免許を返納しよう」となったわけです。
「息子は『まだ乗れるんじゃないの』と言ってくれました。普通は返納に賛成してくれるはずですけどね(笑)」
西本さんとRX-7との逢瀬に残された時間は2年だった。それでも最初の頃は西本さんもご家族もそれまで通り、淡々と過ごしていた。そしていよいよ残り1年となったところで写真が好きな息子さんを伴ってのドライブが始まる。最も遠いところで鳥取の米子にある「はわい温泉」にも行ったそうです。
「写真好きの次男が色々と写真を撮りながら旅は続きました。雨だったので鳥取砂丘には行けませんでしたが、800kmのドライブも私が運転して走り抜けました」
長距離でもまったく苦にならないほどドライブが楽しいという。さらに桜を見にいったり季節の花や景色を撮影しに、いろんなところに出かけ、RX-7とのドライブを愛おしむように過ごしていました。そして最後のドライブとなったとき、いつも同行されていた息子さんにある提案をしました。
「最後になるかもしれないから『運転してみたら』と言ったんです。それまでは『壊したら大変』などといっていた息子も『それじゃ』といってステアリングを握ったんです。すると、とにかく運転が下手で、見ていられないんです(笑)。すぐに運転を代わってもらいました」と西本さんは屈託無く話す。
「生まれ故郷に帰って行くのが一番幸せなこと」
そして迎えた運転免許返納時期に合わせ、大切な相棒であるRX-7を譲り受けてくれる人を探していることを地元テレビ局の取材を通して発信。するとその放送のYouTube動画は80万回超えの再生回数となり、400件を超えるメールが届いた。その中にメーカーのマツダの広報部からの「マツダに譲って頂けないでしょうか?」というメールもあった。実はこのYouTubeを目にしたマツダの開発担当役員が広報部に連絡し、「マツダとして手を挙げたらどうか」と伝えたという。
「多くの方々からご要望を頂き悩んだのですが最終的には“メーカーに戻っていくのが一番幸せ”だと感じ、今回の決断になりました」
こうして昨年の12月18日、西本さんが愛車のメンテナンスを託してきた九州マツダ赤迫店(長崎県)で、相棒である「RX-7」をマツダへ譲渡するセレモニーが実施され、その後に免許返納のため、長崎県警察浦上警察署へ移動。運転免許証の自主返納を申請した。
「RX-7がまた、新しい道で走り続けてくれることを思うと、寂しさより、とても幸せなんです」
譲渡された西本さんの愛車はマツダの手によって整備され、広報車両として第二の人生を走り出すという。
一方の西本さんは、「昔からピアノやコーラス、ガーデニングなどと趣味が多いんです。やりたいことがいっぱいあるんです。YouTubeで朗読系のチャンネルでもやってみようかしら」。
愛車の第二の人生に負けず劣らず、西本さんの次なる道にも、まだまだ多くの素敵な物語がありそうです。