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「マウント消費」の経済学

【消費行動の新基準】「モノ」「コト」の次なるステップ「マウント消費」とは何か? 消費者が「自分は他者とは違う」と優越感を得るためにお金を払うように

消費行動は自己満足から「自分の価値を示すための手段」へと変化

 これは、資本主義経済における新たな潮流と言える。物質的な満足度が飽和状態に達した社会では、体験やその「見せ方」に重点が置かれ、人はそれに対して積極的にお金を払うようになる。

 たとえば、高級ホテルに泊まる行為自体は「快適な滞在」を得るためのものだが、それだけでは満足できない消費者が増えている。彼ら/彼女らが真に求めているのは、そのホテルでの体験を「どれだけ特別なものとして他者に伝えられるか」「この体験をシェアすることで、どれだけ自分の価値を高められるか」という点にある。

 上質なサービスを享受するだけではなく、「このホテルを選んだ自分のセンス」や「その体験を知っている自分という特別感」が重要な要素となっている。こうして消費行動は自己満足からステップアップし、「自分の価値を示すための手段」へと変化しつつあるのだ。

「マウント消費」の広がりは、企業にとっても極めて重要な示唆を含んでいる。従来の機能やデザインだけでは、もはや現代の消費者の深層心理を捉えることはできない。求められるのは、「その商品を所有することで、どのように自己を演出できるか」「それを所有することで、他者とどう差別化できるか」といったマウント起点の付加価値を提供することである。

 たとえば、単に高機能なスマートフォンを売るのではなく、「これを所有することで、どれほど先進的で洗練されたライフスタイルを体現できるのか」といったストーリーとともに訴えかけることで、消費者の「マウント欲求」を満たしていく。それこそが、現代の消費行動を捉える上で必要不可欠な視点と言えるだろう。

 もちろん、「マウント消費」には危うい側面も存在する。他者との比較に過度に囚われてしまうと、消費が「他者に見せるためだけの行動」に陥り、社会全体が大幅に疲弊する恐れがある。この状況が深刻化した場合、適切に規制するための法整備や倫理的な指針の整備が必要となるかもしれない。

 しかし、社会全体で節度を保ちながらその欲求を健全な形で満たすことができれば、間違いなく消費者に対して新たな価値を提供することにつながる。

「自己表現の手段」として機能する「マウント消費」は、自分自身の存在価値を再確認させ、個性を際立たせるための極めて有効な手段と言える。適切に活用されれば、それは社会に対してこれまでにない活力をもたらす可能性を秘めていると言えるのだ。

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