閉じる ×
トレンド
「マウント消費」の経済学

【消費行動の新基準】「モノ」「コト」の次なるステップ「マウント消費」とは何か? 消費者が「自分は他者とは違う」と優越感を得るためにお金を払うように

「モノ」「コト」消費の次のトレンドは?

「モノ」「コト」消費の次のトレンドは?(写真はイメージ)

「こんな特別な人と過ごしています」「こんな素敵な場所に旅行してきました」――ネット上では頻繁にそうした投稿を目にする。その背後には、多くの人が無意識のうちに抱える“マウント(マウンティング)欲求”が潜んでいる。令和の日本では、SNSの普及とともにこの欲求が顕在化し、日常のあらゆる場面に深く浸透している。

 一見ネガティブに映るこの現象だが、実は日本経済を活性化させる「隠れた切り札」として大きな可能性を秘めている。消費のトレンドは「モノ」「コト」から「マウント」へ――『人生が整うマウンティング大全』の企画・プロデューサーで、最新刊『「マウント消費」の経済学』も注目の文筆家・勝木健太氏が解説する(以下、『「マウント消費」の経済学』より抜粋・再構成)。

 * * *
 経済成長の観点から見れば、モノやコトの需要が飽和しつつある我が国の経済において「マウント需要」が増加していることは、ある種の「皮肉な福音」とも言えるのかもしれない。

 かつて、物質的な豊かさを追い求める「モノ消費」が経済を支えていた時代において、人々は新しい家電や車を購入し、より広い家を手に入れることを目指して消費を繰り返していた。

 しかし、その需要はすでに満たされ、完全に行き渡ってしまった。冷蔵庫やテレビ、クローゼットいっぱいの洋服──それらをこれ以上増やしたところで、大きな生活の変化を感じる人はほとんどいないだろう。このように、生活に必要なモノが行き渡った先進国の消費者にとって「さらに買い足すこと」はもはや満足感をもたらす行為ではなくなりつつある。

 そこで登場したのが「コト消費」である。モノではなく、体験そのものを求める消費行動──高級ホテルでの滞在や特別な料理を堪能するディナー、ラグジュアリーな旅行プラン──こうした“コト”を消費することで、物質的な所有ではなく、人生の豊かさや充実感を追求する動きが加速した。

 この流れは、モノの所有の先を行った「体験の時代」を象徴するものであり、従来の消費概念を大きく転換させるものであった。

 だが、SNSが普及したことによって、この「コト消費」ですらも他者に見せつけることで自分を際立たせるための「マウント消費」へと変貌を遂げつつある。

 つまり、消費の価値が「モノ→コト→マウント」へと移り変わってきているのである。単に高級レストランでディナーを楽しむだけでなく、その体験をSNSでシェアすることで、「これだけ素敵な体験をしている自分」をさりげなくアピールする。あるいはブランド品を所有すること自体ではなく、そのブランド品を持つことで「自分は他者とは違う」と感じられる優越感に対して価値を見出す。

 目的が自己満足から他者との差別化へとシフトし、「モノ」や「コト」の次なるステップである「マウント消費」という行動が生まれつつあるのである。

次のページ:消費行動は自己満足から「自分の価値を示すための手段」へと変化
関連キーワード

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。