2期目のトランプ政権と3期目の習近平政権が対峙する米中関係。その間に立つ日本はどう振る舞うべきか。日米同盟に固執するあまり「米中は対立している」と単純化して世界を見てはいけない理由とは――中国に関する多数の著作がある社会学者の橋爪大三郎氏と元朝日新聞北京特派員のジャーナリストでキヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏が考察する(共著『あぶない中国共産党』より一部抜粋、再構成)。【シリーズの第20回。文中一部敬称略】
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橋爪:ニクソンと毛沢東による1972年の米中和解の結果、アメリカは中国をコマに使うことができて、結局、ソ連を解体に追い込むことができたので、大きなリターンを手に入れることができた。
中国はどうか。ソ連が崩壊し、東欧の社会主義圏も総崩れになるなか、中国はもちこたえた。ソ連崩壊より10年も早く改革開放を進めることができたので、生き残った。中国共産党の体制は、アメリカの支援のもとで現在まで存続できている。
アメリカが中国共産党を支持するなんて、イデオロギーから考えてありえないことなんです。でもとにかく、アメリカには利益がある。そして、(前回記事の)峯村先生のご指摘のように、毛沢東のほうが先を見ていて、中国の利益がもっと大きかったと、いまになって言えると思うのです。
峯村:冷戦後も中国が生き残ることができた最大の貢献者は、私はアメリカだと考えています。マイケル・ピルズベリー氏(アメリカの中国研究者、『China 2049』著者)によると、ソ連が1979年にアフガニスタンに侵攻した後、アメリカが中国から20億ドル分の兵器を買い上げ、それを親ソ政権に対抗する武装勢力に流し込むような工作をしていたそうです。
近現代史の文脈では、ソ連が崩壊して冷戦が終結した、と言われます。それはあくまで、「ベルリンの壁の崩壊」に代表されるように、ヨーロッパの国際関係に限った話にすぎません。
いっぽうのアジアにおいては、分断された朝鮮半島も、中国と台湾の問題も、冷戦構造がそのまま残っています。こうしたアジアにおける冷戦構造が変化したのが、2010年代に入ってからです。アメリカのオバマ政権が「アジア・リバランス」を打ち出して、これまで中東や欧州に置いていた安全保障政策の軸足を、中国を見据えてアジアに移すようになりました。続くトランプ政権がオバマ政権の政策をアップグレードした対中強硬路線に舵を切り、貿易戦争に突入しました。こうして米中は「準同盟関係」から対立関係へと変わったのです。