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ビジネス
あぶない中国共産党

「日本を素通りして中国へ」クリントン大統領の「ジャパン・パッシング」はなぜ起こったのか? 冷戦期は「準同盟関係」にあった米中関係のリアル

「ジャパン・パッシング」のトラウマ

橋爪:もともとアメリカは、支那事変(日中戦争)の当時から中国と結構仲がいいのです。

 日本は、アメリカが日本を重視してくれないと気が済まない、片思いの心情がある。その分、リアルに世界を見ることができないのです。東アジアのパワーバランスや、アメリカが中国をどう見るか、中国がアメリカや日本をどう見るかを、冷静に考えられない。そこがわからないと、米中が握手するリアリズムがわからない。そのリアリズムがわからなければ、日本の立場も、日本がどう行動すればいいかも、考えようとする出発点がピンボケになるのです。

峯村:外務省で中国を専門とする幹部らと話していると、「アメリカが中国と急接近することに警戒をしないといけない」と言っているのを耳にします。この幹部たちにとってトラウマとなっているのが、民主党大統領のビル・クリントンが1998年、日本に立ち寄らずに中国だけを訪問したことです。1980年代にアメリカが日本を叩いた「ジャパン・バッシング」をもじって、「ジャパン・パッシング(日本素通り)」とも言われました。

 日本の政府の人びとが「同盟国軽視だ」とか「民主党政権は親中である」と批判したい気持ちは理解できます。しかし、外交政策を考えるうえでは、精緻な国際情勢の分析が必要です。冷戦期から続く米中の「準同盟関係」の事実を直視していれば、「ジャパン・パッシング」は想定外とはならなかった。しかも、クリントン政権には、私がハーバード時代に師事したジョセフ・ナイ、エズラ・ヴォーゲルの両教授ら「知日派」がおり、同盟関係を強化できる環境にありました。

 日米同盟だけの世界観に立って、「米中は対立している」「中ソは仲がいい」と単純化して見ていては、国際関係のリアルは見えてきません。日本の政府にも民間企業にも欠けているのは、インテリジェンスへの意識と能力だと考えます。

橋爪:そう説明いただくと、霧が晴れるように思います。

(シリーズ続く)

※『あぶない中国共産党』(小学館新書)より一部抜粋・再構成

【プロフィール】
橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。

峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。

橋爪大三郎氏と峯村健司氏の共著『あぶない中国共産党』

橋爪大三郎氏と峯村健司氏の共著『あぶない中国共産党』

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