トランプ米大統領の返り咲きに韓国内乱、日本の政権基盤の弱体化。そうした米国、韓国、日本の政治的混乱に乗じて動き出そうとしているのが中国だ。習近平・国家主席が台湾制圧に動いた時、何が起きるのか。永田町・霞が関の優秀な頭脳をもってしても対応に苦慮した精密なシミュレーションを本誌・週刊ポストは入手した。【前後編の前編】
約50人の“霞が関の頭脳”が2日間にわたって討議
《2025年1月、就任式を終えたトランプ米国大統領は、台湾への圧力を強める中国に対抗するため、F15EX戦闘機、巡航ミサイル「トマホーク」の供与など台湾への軍事支援を発表し、日米は合同演習を実施して米国のミサイル駆逐艦と自衛隊の護衛艦が台湾海峡を通過した。それに反発した習近平・国家主席は台湾海峡を封鎖し、「臨検」を開始──》
首相官邸の国家安全保障局(NSS)をはじめ、防衛省、外務省、経済産業省など関係省庁に報告されて衝撃を与えた〈トランプ米大統領再選と「ポスト台湾有事」〉のシミュレーションは、そんなシナリオを前提に危機が進行していく。
このシナリオは、多くの官僚OBや内外の気鋭の学者を研究員に抱える政策シンクタンク「キヤノングローバル戦略研究所」が2023年夏に作成したもの。その時点でトランプ再選を予測していた。
このシナリオを元に「政策シミュレーション」は実施された。閣僚経験者などの国会議員、防衛、外務、経産各省の幹部ら約50人の“霞が関の頭脳”が、日本、米国、台湾などの各チームに分かれ、「首相」「外務大臣」などの各役職になりきって演習をする。中国役はシミュレーションの主催者が担って、各プレーヤーに圧力を加えていく形式だ。
シミュレーションは非公開で行なわれたが、関係者によると、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合に米国が台湾問題を含めたどのような対中政策を取り、日本はどう対応を迫られ、極東アジアの安全保障や経済にどう影響が及ぶかを2日間にわたって討議したという。
その後、日本の石破茂内閣は衆院選敗北で政権基盤が弱体化し、韓国は尹錫悦大統領の逮捕で政治が混乱するなか、米国では実際にトランプ大統領が再登板した。
混迷する世界情勢を受け、習主席が悲願の「台湾統一」を仕掛ける好機と考えてもおかしくない状況にある。