昨年末から続いていた日産とホンダの経営統合協議。ここにきてホンダが日産を子会社化する案を打診し、そこに日産側が反発、統合協議そのものが破談になったと報じられている。そうしたなかで注目されていたのが、日産が筆頭株主となっている三菱自動車の動向だった。自動車業界に精通するジャーナリスト・井上久男氏は、「経営統合が成立しなくても事業ベースで協力し合うことを続ける方針」と分析しているが、そこで三菱自動車はどのような存在感を示すのか。井上氏がレポートする。(本記事は週刊ポスト2025年2月3日発売号に掲載されたもので、記事執筆時点の情報をもとに掲載しております)【全3回の第3回。全文を読む】
統合実現にむけて大きな存在感を示す三菱
現在の話に戻ると、日産はホンダから統合に向けて経営再建に関する厳しい“条件”を突き付けられているため先行きはまだ不透明だ。
ただ両社は仮に交渉が不調に終わり、経営統合が成立しなくても事業ベースで協力し合うことを続ける方針で、そこに三菱も加わる予定だ。
2024年度のグローバル販売台数の見通しはホンダが380万台、日産が340万台に対して、三菱はその4分の1程度の約90万台。三菱の規模は小さいが、実は統合実現に向けて大きな存在感を示している。
12月23日の記者会見で三菱の加藤隆雄社長はこのように語った。
「当社の強みははっきりしている。それは、ASEAN(東南アジア諸国連合)とピックアップトラックであり、この分野で両社をサポートできる」
ここがまさにポイントだ。三菱自動車の収益源はタイとインドネシアの事業にある。タイではトラックをベースにしたピックアップトラック「トライトン」が稼ぎ頭になっている。
ホンダは、日産との協業・経営統合交渉に本格的に入る前は、手を組んで相乗効果が高いのは三菱だと見ていた。その理由についてホンダ関係者はこう説明する。
「ホンダにはEVに移る過渡期で存在感を増しているプラグインハイブリッド車(PHV)がないが、PHVに強い三菱から商品供給を受けられないかと考えた。続いてホンダはタイの四輪事業を縮小し、生産を三菱に委託できないかとも考えている」
さらに別の関係者は「ホンダの軽自動車『N-BOXシリーズ』は日本で最も売れているクルマだが生産コストが高く、収益性が悪い。このため、コスト競争力が高い三菱の水島製作所(岡山県倉敷市)に委託できれば原価が下がる」と語る。
ホンダはトラックベースのピックアップトラックを開発・製造していない。また、小型ジェットやマリン事業も手がけているが、こうした分野の顧客は富裕層が多い。富裕層にクルーザーをけん引できるような大型ピックアップトラックを提供できれば、四輪事業の収益力向上に貢献できるとの見方もある。