地図を見ないで目的地まで行ってみる
「未知の世界に興味を持つ」こともおすすめだ。
「好奇心」と言い換えてもいいのだが、何事にもつねに好奇心を持ち、未知のことを楽しむ姿勢があると、集中力が高まりやすい。自分が体験していないことや、新しいことに挑戦するときは、自分のもてる力や経験を総動員して、集中して“わかろう”とするからだ。
私がよくやっているのは、知らない場所に行ったとき、時間に余裕があればあえて地図を見ないで目的地まで到達する試みである。
電車の中で外の景色を見て、多分こちら側のほうが建物が多かったから、目的地もそちら側ではないかとか、海に近いほうにホテルや旅館が多いから、自分が泊まるホテルも多分、海側だろうとか、いろいろ周りを見ながら推論して行動する。
そのとき私は自分の経験や直感や推理などあらゆることを総動員して、目的地にたどりつこうとしている。集中力や想像力、思考力などが知らず知らずのうちに実践で鍛えられているのだ。
パンフレットやチラシから目的地を想像し、現地に行ってギャップを楽しむということもよくやっている。海外に行くときはもちろん、地方に出張するときも、時間があればその土地の写真や旅行のパンフレットを眺め、できれば地図も用意して、どんな町なのか想像する。
そして現地に行ってみて、「意外に広いな」とか「けっこう都会だな」などと、ギャップを楽しんでみる。自分が想像したことは、いままで経験してきたことの中で勝手に組み立てたイメージなので、自分がいかに枠にとらわれていたかがよくわかり、枠を広げるきっかけにもなる。
海外旅行で思い出すのは、中学生のとき一人でアテネに行ったときのことだ。アテネにはアクロポリスという有名な神殿がある。子どもの頃から、私はアテネというと、白い大理石の柱が立っている壮麗なあの神殿の写真を頭に思い浮かべていた。
私の中のイメージでは、郊外の広々とした丘の上におごそかにそびえたっている神殿という感じだった。だが、実際に行ってみると、アテネのごちゃごちゃした町のど真ん中に、ちょっとした丘があって、その上に建っていた。「ええっ、こんな町の真ん中にあるの」とそのギャップに驚いたことを思い出す。
こんなふうに、現地に行ってみると想像と違っていることはよくある。そんなとき、「なぜなのかな?」とちょっと考えるクセをつけておく。いかに自分が先入観や思考の枠にとらわれていたかに気づかされて、それを取り払うことにもつながっていくだろう。
※伊藤真・著『考える練習』(サンマーク出版)をもとに一部抜粋して再構成
【プロフィール】
伊藤真(いとう まこと)/1958年、東京生まれ。伊藤塾塾長。1981年、東京大学在学中に司法試験合格。その後、受験指導を始めたところ、たちまち人気講師となり、1995年、「伊藤真の司法試験塾(現、伊藤塾)」を開設する。「伊藤メソッド」と呼ばれる革新的な勉強法を導入し、司法試験短期合格者の輩出数全国トップクラスの実績を不動のものとする。「合格後を考える」という独自の指導理念が評判を呼び、「カリスマ塾長」としてその名を知られている。現在、弁護士として、「1人1票」の実現のために奮闘中。『夢をかなえる勉強法』『夢をかなえる時間術』『記憶する技術』『深く伝える技術』(サンマーク出版)、『伊藤真試験対策講座(全15巻)』など著書多数。