中国のAIに支配されるリスクをどう考えるか
国家としての米国にとって、DeepSeek-R1登場の影響は大きい。AIが人間の“教師”としての意味を持つとすればAIの素性は極めて重要な意味を持つ。中国製のAIが世界市場で支配的な地位を占めるのであれば、それは中国の法律、政治的信条を持つ教師によって人間が教育され、そうした人間によって社会が形成されることになりかねない。米国は圧倒的なAI技術力の差で米国の覇権を補強したかったはずで、それが中国に支配されてしまうようなことは是が非でも阻止したいはずだ。
もっともそれは中国にとっても同じことだ。中国は対外情報管理を厳しく規制しており、サーバーが国外にあるような状況で政府による有効な監督管理は難しい。そのため、中国政府は中国本土でのChatGPTの使用を禁止している。米国や日本が無料アプリ“DeepSeek-R1”のダウンロードを禁止したとしても、中国から批判される理由は全くない。
AIを巡り、米中の対立は今後、さらに深まることが懸念される。ちなみに、日本にとっても同じ問題が発生する。中国のAIに支配されるリスクとともに、米国のAIに支配されるリスクについても国家としてよく検討する必要があるだろう。
蒸留過程(*事前学習済みAIモデルの知識を、別のモデルに移転させる学習プロセス)を巡り、OpenAIサイドから盗用があったのではないかといった懸念がかけられているが、盗用さえすれば、誰でも簡単にChatGPT-4oに匹敵する製品ができるわけではなく、また、他社による悪意の蒸留を制限しようにも、それを低コストで確実に止める方法はないのが現実だ。そもそも、OpenAI自体が、インターネット上に広がる無限の情報について一つ一つ著作権者に許可を得て利用しているわけではない。その点を問題視する有識者も多い。
イーロン・マスク氏はAI開発について、人類全体の利益を考慮した開発が重要であり、透明性を持ち、オープンな形で進めるべきだと主張、AI開発の営利事業化に反対している。技術、情報の囲い込みは倫理、安全性などの面でリスクが大きいとも主張している。短期的な利益追求を行わず、オープンソース、価格破壊を進める深度求索の登場は、そうした点で望ましい面もある。