右が3シーズン使用したスタッドレスタイヤ。左がテスト用で装着する最新のオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。スタッドレスとオールシーズンではトレッドパタンも違う
今期最大級の寒波襲来、車のスリップ事故や路上での立ち往生など、雪道や凍結路での降雪被害が、連日のように報じられている。そんな状況の中で、ドジャースの大谷翔平選手をCMに起用して話題となっているダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」を装着して、国道17号線の“三国峠越え”に挑戦。雪道専用のスタッドレスタイヤでも厳しいと言われる中で、「あらゆる路面にシンクロする」という最新テクノロジーで仕上げられたオールシーズンタイヤは通用するのか? シリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」、自動車ライターの佐藤篤司氏がレポートする。《前後編の前編》
ドライ路も雪道も走れるマルチプレイヤーが難しい理由
二刀流どころかマルチに対応して「理想のベースボールプレイヤー」の道を突き進んでいる大谷翔平選手。彼をCMに起用して話題になったのが、ダンロップ(住友ゴム工業)のオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」でした。確かにドライ路面からウエット路、さらには雪道から凍結路面までにおいて高いレベルの走行安定性を発揮するオールシーズンタイヤという触れ込みは、大谷選手のマルチぶりとシンクロします。
しかし、一般的に考えると「雪のない季節はノーマルタイヤ(夏タイヤ)、冬にはスタッドレスタイヤ」といった具合に、季節に合わせて専用のタイヤを使用することが最善です。野球の世界などと同じく、マルチプレイヤーよりも「スペシャリスト」が主流となっていることと共通かもしれません。
実は「シンクロウェザー」の開発のきっかけも《夏も冬も高い性能をマルチに発揮するタイヤを作ってみないか!》という「少々、無理スジの開発指令だった」と、ダンロップのエンジニアから聞いたことがあります。では、なぜ無理スジの要求だったのでしょうか?
本来、「夏タイヤ」はドライ路面で最良の性能を発揮するようにゴムの材質を開発し、その上で、雨天での排水性の向上しロードノイズを抑え、快適に走行できるように仕上げてあります。ところがドライ路面で実力を発揮するゴムは、外気温や路面温度が下がると硬くなり、路面とのコンタクト力(摩擦係数)が下がります。さらにタイヤのトレッド面(路面と接触する部分)に刻まれたトレッドパタン(溝・切り込み)は、積雪路や凍結路をガッチリと掴むような構造になっていません。そのため雪道や凍結路を、滑り止めを装着せず、ノーマルタイヤのままで走行することは「沖縄県を除く46都道府県の条例」に反する行為となり、道路交通法違反です。
一方、「冬タイヤ」の「スタッドレスタイヤ」は、積雪路や凍結路などを走行するために、ゴムの材質からトレッドパタンまで、冬の道のために開発された専用タイヤです。圧雪路から凍結路まで、しっかりとコンタクト力を発揮するように、低温でも路面への密着に必要な柔軟さを失わないゴムを採用。さらに独特のトレッドパタンを採用して路面との接地面積を増やしたり、深く、細かく刻まれた溝や切り込み(サイプ)で雪面や凍結面をひっかくようにして路面とのコンタクト力を向上させる設計になっているのです。雪国では「冬の必須アイテム」であり、11月下旬あたりから、4月初旬ぐらいまでの半年ほどは、スタッドレスタイヤを装着して過ごします。
しかし、冬の道で威力を発揮したゴム素材や雪道専用のトレッドパタンは、冬以外のドライ路面では、むしろ走行性能を落とします。例えば気温が上がってきた状況で柔らかくなったゴムは剛性感が低くなり、コーナリングで腰砕け感やステアリング操作に対するレスポンスなどが悪くなります。また雪面をしっかりと掴むための独特のトレッドパタンは、雨天時の排水性が悪く、ハイドロプレーニング現象が起きやすくなったり、ブレーキング時の制動距離が伸びたりします。こうしたドライ路面でのウイークポイントがあるため、一般路はもちろん、降雨時の高速走行ではとくに注意が必要で、速度も抑え気味に走ることが求められるのです。