人吉高校に留学してきたウインキーが撮影した1枚。はしゃぐ男子生徒たちの真ん中で落ち着いた表情を見せるのが高校時代の橋本だ
トランプ支持者になった元留学生からのメッセージ
ウインキーがニコマート(一眼レフ)で撮った修学旅行写真がある。車中ではしゃぐ男子生徒たちの真ん中で、その喧騒には加わらずに撮影者に目を向けるのが橋本だ。頭でっかちの憂鬱をすまし顔の裏に押し殺している、といった表情だろうか。
帰国したウインキーがオニオンタの大学を卒業するころ、アメリカの経済はふるわず就職難に直面する。在学中に出会った今の妻のつてを辿って再び来日、横須賀基地や関連施設で軍属として身を立ててきた。
ウインキーは、熱心なトランプ支持者でもある。彼からじっくりその理由を聞くうちに、私の中でトランプ支持者のイメージは変わっていった。数度目の取材の折に、「メッセージはありますか」と尋ねると、重圧の下にいる橋本への激励の手紙を託してくれた。そこには、第二の故郷・人吉への思いと合わせて、こう記されていた。
〈トランプは交渉において巧者ですが、同時にコモンセンス(常識)を備えた人でもあります。最終的にUSスチールの近代化と成長を後押しする日鉄の挑戦が、興奮と期待を持って迎えられると信じています。“メードインUSA”が協約の主要な部分として残るかぎり、きっと君は成功すると思います〉
――首脳会談から1週間を経て、トランプからは水面下のさやあてが進んでいることをうかがわせるキーワードも飛び出す。直接交渉で顔を合わせた時、トランプは、「田舎者だったこと」を誇りさえする橋本をどんな人物と見定めるだろうか。
トランプが幹部に登用した人物を見渡すと、シングルマザーの貧困家庭から出世の道を勝ち取ったバンス副大統領や、「実家はアイスクリーム屋」という一族出身で初めての大卒エリートとなった27歳のリーヴィット大統領報道官もいる。
田舎者・橋本英二が「有効な交渉相手」と見なされる可能性も十分にある。
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現在、「マネーポストWEB」では、日本製鉄側の最大のキーマンである橋本会長のインタビュー記事4本を全文公開している。別記事『【独占インタビュー】日本製鉄・橋本英二会長「USスチールの買収チャレンジは日鉄の社会的使命」、社内の賛否両論を押し切った決断の経緯』などで、海外に打って出て成長にチャレンジする必要性が語られている。