トランプ大統領との直接交渉にのぞむ橋本会長(時事通信フォト)
日本製鉄によるUSスチールの買収計画は、近くトランプ大統領と日鉄の橋本英二会長兼CEO(69)の直接会談という正念場を迎えようとしている。その舞台にのぞむ橋本氏の原点には、少年期から英語を学んだ強い海外志向と、ある1人のアメリカ人との出会いがあった。昨年11月、橋本氏に独占インタビューしたノンフィクション作家の広野真嗣氏がレポートする。(文中敬称略)
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USスチールの買収計画をめぐって近くアメリカのトランプ大統領との直接交渉にのぞむ日本製鉄の橋本英二会長兼CEOは、大胆な構造改革をやり遂げた上で、グローバルな挑戦にこぎつけた経営者だ。成長にチャレンジする精神の源を昨年11月の単独インタビューで問うと、橋本は、「私は田舎者だったから」と答えたが、田舎のなかの田舎から国を代表するトップマネジメントにまで登り詰めた橋本をトランプはどう迎えるのだろうか。
〈私は人吉・球磨地方という田舎に育ったことに感謝し、自慢にしている。苦しい時に、会社や社会のせいにしがちな都会人に比し、誰のせいでもない、自然の厳しさに晒されて育った田舎人は、周りのせいにする前に自力で何とかしようとする強さがビルトインされている〉
2年前につくられた母校の文集に、橋本はこう書いている。
鹿児島空港から車で2時間、球磨川の急流が肥沃にした平地に立つと、両岸の米作がいろどる緑が眩しい。橋本の郷里、熊本県南部の人吉・球磨は南北の山塊によって隔絶されたクロワッサンのような形の盆地だ。
生家があった肥後西村は、人吉の市街地からも外れた郡部に位置し、幼い頃は水道や電気もろくに通っていなかった。中卒だった両親は酒などを扱う小さな小売を営んだが家計は苦しく、小学校まで橋本は靴も履いたことがなかった。
「ここを抜け出したい」とくすぶりを抱えていた中学時代から橋本は、英語に打ち込んだ。同じ中学・高校に通った前原幸博は、知り合った頃の橋本の印象を「とにかくビンタ(頭)がよかったこと、それに英語に強い関心をもっていたこと」と語る。