USスチールのエドガー・トムソン製鉄所(米ペンシルベニア州/時事通信フォト)
信頼関係のある企業に「資本参加」してもらう
また、日系商社のアメリカ法人など信頼関係もある企業の協力を得て、この1割に相当する部分で資本参加してもらう方法もありえる。ただ、その場合はのちに日鉄がその株式を買い戻すことを保証する約定を取り交わす必要も生じそうだし、新たなプレイヤーが登場することにUSスチールの株主の理解を得られるか、という追加のリスク要因も生じる。
「過半数は取らせない」というトランプ氏の主張は字義通りではなく、より大きな投資を引き出すためのディールである可能性もあり、その発言に一喜一憂してもしかたない、という見方もあるのも確かだ。
その場合でも、トランプ氏が成果として誇れる“お土産”が求められる可能性はあり、すでに約束した約2兆4000億円の投下資金の上積みが必要になるかもしれない。
当然、これは日鉄の株主に理解を得ることが大前提となる。
ただ、トランプ大統領は「USスチールを再び偉大な会社にする!」と唱えるものの、粗鋼生産量の企業別ランキングでは世界で24位の1575万トン(世界鉄鋼協会2023年)にとどまる。これは宝武鉄鋼集団の1割、4位の日鉄の4割以下の規模。しかも鋼材価格が低迷した2024年10~12月期の業績は140億円の赤字に陥っており、トランプ氏の追加関税だけで、再生の道が描けるとは考えにくい。
来たるトランプ・橋本の直接交渉で「ウイン・ウインの戦略」が提示されるか。日米の双方で注目が集まっている。
■取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)
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現在、「マネーポストWEB」では、日本製鉄側の最大のキーマンである橋本会長のインタビュー記事4本を全文公開している。別記事『【独占インタビュー】日本製鉄・橋本英二会長「USスチールの買収チャレンジは日鉄の社会的使命」、社内の賛否両論を押し切った決断の経緯』などで、海外に打って出て成長にチャレンジする必要性が語られている。