手始めは圧倒的存在感を示したBEVスポーツカー
その答えの第一弾となったのが2019年7月16日(日本披露は9月)に登場した電動ハイパーカー「エヴァイヤ(EVIJA)」。限定130台(当初予定で現在は不明)のプレミアムEVスポーツで、システム最高出力はなんと2039馬力、最大トルク1704Nm。1基が500馬力を発生するモーターを4輪に1基ずつ与えた2シーターのBEVスーパーカーです。ボディシェルはカーボンファイバー製で、車体中央部(ミッド)に出力2000kW、蓄電量70kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、車重を1680kgに抑えている点にロータスの苦心が見えます。それでも「ロータスとしては重い」といわれながらも圧倒的な出力によって0-100km/h加速は3秒以下、最高速は320km/h以上という動力性能を実現。その価格は発表時点で180万~200万ポンド(発表当時のレートで約2億3300万~2億5900万円)と、すべてが非現実的な存在です。
次いで登場したフル電動モデルはSUVの「エレトレ」。最強モデルの「エレトレR」は最大出力918馬力(675kW)で、2つのモーターによって4輪に高トルクのパワーを供給する4WDです。車両重量は2トン越えの 2715kgです。688リットルのリアトランクを備えた実用的なSUVながら、こちらも圧倒的なパワーで0-100km加速 は2.95秒、最高速度が265km/hを実現。その価格は2324万3000円です。エヴァイヤほどではないのですが圧倒的なパワーという力業を使って、高いパフォーマンスを実現しています。恐ろしく速く、大きく、そして重量級の「ロータス」といえます。
英国車初のフル電動ハイパーカーとして登場したLotus Evija(エヴァイヤ)。超軽量カーボンファイバー製モノコックの採用でBEVの軽量化を実現した
SUVのエレトレは実用的で多用途、かつ広々とした快適なハイパーSUVとして開発。超弩級の速さと実用性の高さがロータスの新たな市場を開拓
BEVでもロータスのDNAは健在
そして最新のBEVスポーツサルーンとして登場したのが、今回の「エメヤ」です。約75年間にわたるスポーツカーの設計ノウハウ、ロータスのDNAを採用して仕上げたという“ハイパーGT”の4ドアサルーンは「エレトレ」と同じプラットフォームを使用し、全長も5mを越える、ロータスの新たなフラッグシップを名乗ります。そのライバルはポルシェ・タイカンあたりです。最強モデルの「エメヤR」は最高出力918PS(675kW)、最大トルク985N・mを発生し、車重は2,575kg。やはり重量級ですが0-100km/h加速が2.78秒、最高速は256km/hというハイパフォーマンスで、価格は2268万2000円です。
エレトレとベースは同じですが、エメヤ独特のローフォルムというプロポーションを実現するため、バッテリーセルの形状を変更し、スポーツサルーンとしてのスタイルを実現しています。これまで乗ったことのあるロータス各モデルとは、正に対極にある存在です。
実際に走り出してみると「世界最速のエレクトリックGTの1台」とロータスが自信を見せる理由が理解できました。その周囲を置き去りにするような強烈な加速感は、まさに一級品のスポーツサルーンです。
一方でエレトレ以上に低重心ですからコーナリングでも安定した走りを見せます。もちろんサルーンならではのゆったりとした走りでも輝きを見せます。市街地を走っても、高速クルージングでもその乗り味は洗練されていて、しっとりとした快適性があります。これに使いやすさと心地よさが加わるので「これがロータスなのか」と、これまで自分の中にあったイメージが一新される感じです。
そしてしばらく走っているとあることに気が付きます。ロータスは例え重量級であっても、長年にわたるスポーツカー作りの中から「重量増に抗う術」を知っていて、その答えが「エメヤ」なのかもしれない、とおぼろげながら答えが見えたように感じました。「これが新しいロータスの味わいというヤツかぁ」といった結論じみたものです。
ロータスは現在、ボルボと同じく中国の「吉利控股集団(ジーリー)」傘下にありますから、ロータスのヘリテッジや意向に関わらず「BEVスポーツカー専業」へと大きく路線を変えざるを得なかったことも理解できます。ひょっとしたらブランド存続のためには仕方なかったかもしれません。当然、「寂しい」とか「残念だ」といった気持ちもありますが、そうしたノスタルジックな気分だけで語るのは時流に合っていないことなのかもしれません。
一方で今回のようにBEVスポーツカーメーカーとして歩み出し、新たなロータス像を示しながら中国やアメリカといった巨大マーケットで躍動すれば、ロータスは生き残るのです。ロータスは今後も順次、BEVモデルを予定しています。そうしたモデル達には願わくば「軽さは正義」を忘れず、新生ロータスの姿を見せてほしいのです。