佐藤:その文脈で注意しなければいけないのは、2月7日の日米共同声明です。辺野古の新基地建設に関してトーンダウンしている。「唯一の選択肢」という言葉が落ちましたからね。大幅な米軍再編のなかで、今後、海兵隊が沖縄からいなくなる可能性さえあります。
池上:なるほど。
佐藤:だから防衛力は絶対に整備しなくてはならない。防衛力を背景に中国や北朝鮮と交渉し、戦争を起こさないためです。
与那国島を要塞化したことで、確率の問題として中国との偶発的な銃撃戦が起きやすくなっている。米軍の抑止が働きにくいから、日中首脳間で偶発事態として処理するしかなく、両者を結ぶホットラインが死活的に重要です。
もう一つ、日米の同盟もこの際、「本音ベース」に立ち戻るべきだと思います。敗戦で民主主義や基本的人権という「価値観」をアメリカと共有する国になったというのはウソではないけれど建前です。本音は、戦争に強く敵に残虐なアングロサクソンと二度と戦争をしないと誓った。そのためにアメリカと同盟関係を結び、ジュニアパートナーとなる道を選んだわけで、その原点に戻ってアメリカの言う通りにすること。その軛(くびき)から離れるなんていう間抜けなことは考えないことです。
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構成/広野真嗣(ノンフィクション作家)
【プロフィール】
池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊子どもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。名城大学教授、東京工業大学特命教授。著書に『池上彰の世界の見方 ロシア』『一気にわかる!池上彰の世界情勢2025 トランプ再選で日本と世界はどうなる編』など。
佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。元外交官、作家。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在露日本国大使館などを経て外務省国際情報局に勤務。現在は作家として活動。主著に『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』、近著に『賢人たちのインテリジェンス』『佐藤優の特別講義 戦争と有事 ウクライナ戦争、ガザ戦争、台湾危機の深層』など。
※週刊ポスト2025年3月14日号
ジャーナリストの池上彰氏
“外務省のラスプーチン”と呼ばれた元外交官で作家の佐藤優氏