「日本が高度成長できたのは経営者ではなく、労働者の質が高かったから」と語る高岡氏
世間の注目を集めたフジテレビ問題では、親会社フジ・メディア・ホールディングス(HD)の経営陣による企業統治(ガバナンス)問題も浮き彫りにした。現在はケイアンドカンパニー社長として企業のマーケティングやイノベーションのサポート手掛ける、元ネスレ日本社長の高岡浩三氏は「日本企業のガバナンスコードは幼稚園並み」と喝破する。はたして日本企業が生き残る道はどこにあるのか? フリーライターの池田道大氏が聞いた。【全5回の第4回。第1回から読む】
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元タレント・中居正広氏の女性問題への対応を誤り、スポンサー離れが相次いだフジテレビ。被害を訴える女性とマスコミへの対応を誤ったことや、フジ・メディアHD取締役相談役の日枝久氏(3月27日付で退任)が41年間にわたって権力の中枢にいたことなど、フジ経営陣が抱える様々な問題が指摘されている。元ネスレ日本社長で、現在はケイアンドカンパニー社長として企業のマーケティングやイノベーションをサポートする高岡浩三氏はこの問題をどう見るのか。
「この問題の根幹には、日本企業のガバナンス欠如があります。フジテレビだけでなく、ホンダとの経営統合に向けた交渉が破談になった日産自動車も同様ですが、ほとんどの日本企業はガバナンスが欠如しています。フジの問題で言えば、日枝氏の“院政”で経営陣が批判されていますが、本来、取締役を選任するのは株主の責任。この問題の根っこにあるのは、株主総会が機能していないことなんです」(高岡氏・以下同)
世界最大の食品・飲料メーカーであるネスレの100%子会社であるネスレ日本の社長を10年間務め、グローバル企業のガバナンスを肌で知る高岡氏は、日本企業の株主総会が機能しないことには「歴史的な経緯」があると語る。
「敗戦後、日本では、松下幸之助さんや盛田昭夫さん、本田宗一郎さんらが裸一貫で町工場からスタートしました。その際、日本人の投資家がいなくなったので本来なら外資が入ってくるはずでしたが、日本では銀行が株主として企業を支えた。これが世界に例を見ないメインバンクシステムです」
このメインバンクシステムが、日本企業の株主総会の機能不全につながっているという。
「銀行は株主としてだけでなく、融資の面で大きな影響力を持つうえ、他の企業も含めて株の持ち合いで安定株主になっているので、株主総会で波乱が起こることはほとんどなかった。だから昔の株主総会は総会屋対策だけやっていればよく、質疑応答や議論がない“シャンシャン総会”でした。みんなあまりわかっていないけど、これが一番大切なところです。
日本ではアクティビストと呼ばれる機関投資家が毛嫌いされますが、会社は株主が投資した資本から成り立つが故に、外資系企業では”物言う株主”の声にこそ耳を傾けるのが普通です」
戦後、外資に日本企業を買い漁られないためにメインバンクシステムは確かに必要だったかもしれないが、負の側面も大きかった。