かつて通商産業省(現・経済産業省)で国際経済を担当し米州課長も務めた明星大学教授の細川昌彦氏
「日本政府に危機感が欠けてはいないか」
例えば、中国は2023年8月、軍事レーダーからスマホまで半導体には欠かせない材料であるガリウムの輸出規制を始めましたが、実はガリウムは日本企業が輸入して窒化ガリウムに加工し、アメリカに輸出してきた商材です。中国は重要鉱物のサプライチェーンを調べ、さまざまな貿易相手国の弱点を特定しつつあります。
しかも、これに“副産物”がついてくる。許可に必要な輸出審査を受け付ける過程で、申請してきた外国企業の先端技術がどのように製品に使われるのかといった機微な技術情報を入手できるのです。
関税合戦はまだ“序盤”ですが、ウクライナの停戦交渉で目鼻がつけば、すぐにトランプ氏の関心は中国にシフトするはず。そこで心配になるのが、こうした情勢に対処する日本政府にその危機感が欠けてはいないか、という点です。
3月上旬に武藤容治・経済産業大臣が訪米して関税の対象から日本を外すよう要請しましたが、何ら回答を得られず帰国しました。通常行われる事前の事務レベルの折衝ができなかった状況に驚きました。ちなみに韓国は、アメリカの造船業が毀損している危機感を米国が有していることから軍艦のメンテナンスの分野で協力を強化し、対米交渉のカードにしている。日本は経産省だけの対応にとどまり、霞が関の縦割りを越えて政府全体としての知恵を結集した戦略が未だ構築できていない点で、日本の対応は韓国に見劣りします。
私が通産官僚として国際経済を担当した1980年代後半も、ヨーロッパはEU統合、アメリカは北米で経済圏の結びつきを強める、ブロック経済化の危機でした。知恵を絞った末に、日本はオーストラリアと協力してアジア太平洋経済協力(APEC)の国際枠組みを立ち上げることにした。元々APECは通産省のアイデアで日本国内で外務省の賛同をなかなか得られなかった。そこでオーストラリアのホーク首相(当時)から提案してもらうことにした。このAPECは米欧のブロック化を牽制するために「開かれた経済協力」をキーワードにして、アメリカや、後には中国も参加することになりました。