各種統計により「自宅に置かれる現金」、いわゆる「タンス預金」の急増が明らかになってきた。第一生命経済研究所の推計では、総額約43兆円。日銀によると、昨年末の定期預金残高は244兆9337億円で、前年末比3.9%減と9年ぶりの低水準を記録したという。わずかとはいえ、銀行預金ならばもらえる利息を捨て、自宅のセキュリティ強化などコストをかけてまでタンス預金を選ぶ人が多いのはなぜか。
まず挙げられる原因は預金金利の低下だ。定期預金の平均金利(預入金額300万円未満、期間6か月以上1年未満)は、今年3月に0.014%と過去最低を更新。超低空飛行を続けている。背景には、日銀が2016年2月に導入したマイナス金利がある。これによって、ただでさえ雀の涙程度しかなかった預金金利はさらに低下した。都内に住む40代サラリーマンが語る。
「妻は当初、私たちが銀行に預けているお金までマイナス金利が適用されて損になるのではないかと心配していました。もちろん、定期預金や普通預金の金利がマイナスにならないのはわかっていますが、妻にいわれて改めて冷静に考えてみると、ATM手数料として払う額は、預金につく利息よりもよっぽど高い。すでに事実上のマイナス金利ですよ」
銀行側にも事情があるのは確かだ。銀行が日銀の当座預金に置く資金の一部にはマイナス金利が適用される。それが収益の圧迫につながる。そのため昨年10月以降、ATM手数料の値上げが始まった。三井住友銀行はそれまで預金残高10万円以上であれば無料だった平日時間外の引出手数料を108円とした(「SMBCポイントパック」で所定の条件を満たしている場合は無料)。ゆうちょ銀行、みずほ銀行は他行への振込手数料が無料になる条件を引き上げた。そうした動きが銀行預金の魅力を失わせていることは確かだろう。