加えて、富裕層を中心に銀行預金を避ける動きが顕著なのは、国による課税強化の動きがあるからだ。第一生命経済研究所の首席エコノミスト・熊野英生氏はこう分析する。
「2015年1月からの相続税増税に加えて、2016年1月からマイナンバーが導入された。ちょうどタンス預金増加のペースが上がったタイミングと符合する。相続税が“持てる者”をターゲットにした税制であるのは明らかですし、マイナンバーも国が個人の資産をガラス張りにして把握することにつながる政策と受け止められています」
将来的にマイナンバーは個人の銀行口座などと紐付けされていくとみられているが、「その先に口座の残高に課税する『貯蓄税』のような政策が導入されることを警戒する富裕層は多い」(都内を拠点とする税理士)という。タンス預金にしておけばマイナンバーに紐付けされず、税務署などの当局にも把握されにくいと考えられているようなのだ。
自宅に1億円を保管しているという80代男性はこう語る。
「別に脱税しようと企てているわけじゃない。私が死んだら、そのお金を海外に寄付してもらいたいと思っているんです。銀行に置いておくと、死んだらすぐに口座が凍結されてしまい、解除手続きが面倒でしょう。
銀行に預けても、引き出す額が数千万円くらいになると使途をしつこく聞かれるし、税務署にも税逃れを疑われたりする。タンス預金ならそうした煩わしさから解放されるからいいんですよ」