昨年、大手広告代理店・電通の新入社員の過労死事件が発覚して以降、恒常的な長時間労働のスタイルが定着している広告代理店の多くが「ブラック企業」ではないか、と指摘されることが増えている。あらためて、広告代理店は本当にブラックなのか? かつて広告業界に籍を置き、現在も数多くの広告関連業務に携わっているネットニュース編集者の中川淳一郎氏が解説する。
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ブラック企業といえば、「低賃金」「長時間労働」「貧困な福利厚生」が揃い、さらには「パワハラ上司」という要素も加われば完全なるものとなるだろう。私は今年3月末に『電通と博報堂は何をしているのか』(星海社新書)という単行本を上梓したが、執筆にあたり、それなりの数の電通・博報堂の社員に取材をした。ところが、正社員は誰も両社のことを「ブラック企業」とは思っていないのである。
両社とも「長時間労働」はあるものの、給与水準は世間よりも高く、仕事内容自体も世の中の多くの人の目に触れる達成感のあるものが多い。そうした点から、ブラック企業の定義から外れていると考えている者が多いのだろう。だが、ネットを見ていると、両社はブラック企業の権化のごとき扱いをされている。当然両社にもパワハラを受けていたりする社員はいて精神を病む「ブラック労働」をしている者は多いが、同じ規模の他社と比べてその率が高いか低いのかは分からない。
その一方、広告・広報業界でも確実に冒頭の3つの条件が揃った企業はある。それは下請け企業である。制作会社、PR会社、デザイン会社、イベント会社などが該当するのだが、彼らは広告制作においては「川下」である。上流から流れてきたお金が次々と仲介業者の懐に入り、最終的に手を動かす彼らにはそれほど残らなくなる。これはテレビ番組でも同様である。かつて『発掘!あるある大事典』(フジテレビ系)が、「納豆でやせる」という捏造番組を作ったが、スポンサーから局に渡されたカネは1億円だったにもかかわらず、最終的な下請け制作会社に渡ったカネはわずか860万円だったと言われている。