ところが、往々にしてマスコミは、経済的に自立して平穏に暮らしているマジョリティのことは取り上げず、失業などでとくに困窮しているマイノリティが、あたかも世間にあふれているかのように報じる。
たとえば、最近の新聞やテレビは「下流老人」や「老後破産」の問題を大きく取り上げている。だが、日本の個人金融資産1700兆円の大半を保有しているのは高齢者だ。つまり、大局的に見れば、高齢者の多くはゆとりのある生活を送っているわけで、「下流老人」や「老後破産」は全体から見れば極めて少数の問題なのである。
あるいは、2008年12月31日から翌2009年1月5日まで東京の日比谷公園に開設された「年越し派遣村」のことを覚えている人も多いのではないか。失業者を支援するために、NPOや労働組合によって組織された団体が炊き出しや生活・職業相談、簡易宿泊所の設置などを行い、当時は連日、大々的に報じられた。しかし、それ以降「年越し派遣村」は一度も開設されていない。なぜなら、これも極めて少数の問題だからである。
にもかかわらず、マスコミが大きく取り上げると、政府はそれに反応し、マイノリティ向けの政策を場当たり的に繰り出す。「貧困者対策」という政策が不要だとは言わないが、そこに税金を注ぎ込んで失業者を減らすことを「景気刺激策」だと考えるのは、大間違いだ。
日本の景気は、現実を見れば「そこそこ」である。さほど良くはないし、さほど悪くもない。選挙の時などに街頭インタビューやアンケート調査で「政治に何を望むか?」という質問をされると、「景気を良くしてほしい」と答える人が多い。だが、本当に景気が悪い国に行ったら、路頭に迷っている人が街にあふれている。そういう光景は日本のどこにもない。