日本には多額の金融資産が眠っている。ところが、その金が社会を潤している実感がわかない。経営コンサルタントの大前研一氏が、なぜ、このように奇妙な姿をした世界でも有数の「黄金の国」が生まれてしまったのかについて解説する。
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「黄金の国ジパング」──。かつてマルコ・ポーロは『東方見聞録』で日本をそう紹介したとされる。だが、この言葉は、まさに2017年の現在の日本に当てはまる。今や全国すべての家の屋根や屋上に金箔を貼り付けたとしてもお釣りが来るぐらい、家計にお金が眠っているからだ。
日銀が発表した資金循環統計によると、家計が保有する金融資産は2017年3月末時点で1809兆円(うち現金・預金は932兆円)に達し、年度末としては過去最高を記録した。民間企業の金融資産も1153兆円(同255兆円)で過去最高となった。
個人と企業を合わせると約1200兆円ものお金を、日銀のマイナス金利政策でスズメの涙ほども金利がつかない銀行などにジーッと寝かせているわけだ。実際、銀行や信用金庫などの預金残高は3月末時点でやはり過去最高の1053兆円に達している。その一方で、消費や設備投資は一向に増えない。こんな国は世界のどこにもない。これが、私が本連載などで何度も指摘している「低欲望社会」の異常である。