老人ホームへの入居者は、かつては80代が多数派だったが、最近は70代からのんびり「終の棲家」で過ごすスタイルが主流になりつつある。だが、政府が進めている「年金75歳受給開始」時代が現実になれば、その幻想は打ち砕かれる。
「待機老人」が52万人いると言われる特養(特別養護老人ホーム)を諦め、有料老人ホームを選ぶ人は多いが、今後は老人ホームをめぐる資金不足が相次ぐことになるのだ。
老人ホームの「入居一時金」を全額前払いした際の平均は約2000万円(全国有料老人ホーム協会の調査、2014年度)。この額はホームにより差があり、一般にはもっと手頃なホームが多いとされる。これまではこの入居一時金を退職金などで支払い、あとは月額を年金で払い続ければ死ぬまで安心、と思われていた。
しかしこの方程式が75歳年金受給開始となれば、脆くも崩れ去る。全国有料老人ホーム協会の調べでは、居住費、管理費などを含む月額の平均は24万7000円(同前)だ。現在の平均年金月額(モデルケース)が約22万円なので、月々3万円弱の持ち出しでなんとか死ぬまで居続けられる、というのがこれまでの計算だった。だが、75歳まで年金受給がずれれば、月25万円弱という負担が一気にのしかかる。