しかし、それこそ政府の思う壺なのだ。年金制度に詳しい「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
「75歳受給を選んでも、男性の平均寿命(約81歳)から見ると年金を6年しかもらえない。額面は多いが、受け取る年金総額は自分が払い込んだ保険料より少ない払い損になる可能性が高いのです。それに世帯収入が増えると医療費の窓口負担や高額医療費の自己負担の上限もハネ上がって出費が非常に増えてしまう」
それだけではない。たとえ健康を維持してフルタイムで75歳まで働いても、再雇用では給料が現役時代の半分以下に減るケースがほとんどだ。
74歳までは年金を我慢して退職金など貯金を取り崩しながら生活することになる。仮に、夫婦の一方でも介護や入院が必要になれば即、老前破産の危機に直面してしまう。75歳でようやく割り増し年金をもらっても、年金総額は支払った保険料より低い。
日本の個人金融資産1800兆円の6割は高齢者世帯が持っている。受給額割り増しをちらつかせて“高齢者が資産を使い果たすまでは年金を払わない”というのが「健康長寿社会」の正体なのだ。
※週刊ポスト2017年9月1日号