現在政府が検討している75歳年金受給時代とは、「定年後も働く」ことを事実上“強制”することを意味する。受給開始年齢引き上げと雇用延長(再雇用)はセットの政策だが、たとえ長く勤めた会社での再雇用に恵まれても、そこには「天国と地獄」が生まれる。
再雇用の天国と地獄を分ける一つの要素が「定年前の役職」だという。鉄鋼メーカーで60歳の定年を迎え、再雇用された62歳の男性はこういう。
「うちの会社だと、部長クラスは関連会社や下請けの役員として“天下り”できることが多いが、それ以下の役職で終わっていると再雇用時の給料が半分以下になる。嫌なら他の仕事を自分で探すしかありません」
役職のほかに「専門技能の有無」が関係してくるケースもある。大手メーカーに再雇用で5年間務め、退職した68歳の男性が振り返る。
「設計や研究の部署で、“匠”と呼ばれるような職人技の持ち主や、特殊溶接などの熟練工などは、会社のほうから“頼まれて残る”かたちになる。大得意先と個人的に大きなパイプを持っている営業社員や、税務や法務に詳しく“生き字引”として頼られる人なども同じです。こういう人たちは、“本部長付アドバイザー”といった肩書きがつき、手当や一時金も別途あるので定年前に近い待遇のまま会社に残れます」