「輸出大国の日本にとっては円安が有利」「失業率が低くなれば景気が良くなる」──今の日本では、これまで言われてきた「経済の常識」が全く通用しなくなっている。その最たる例は、第二次安倍政権発足以来、政府・日銀が進めてきたアベノミクスの失敗だ。最新刊『武器としての経済学』で経済の「新常識」を数々提示した大前研一氏が、日本に特有の経済現象を読み解くヒントを伝授する。
* * *
日本は異次元の金融緩和でもゼロ金利でも、いっこうに景気が良くならない。その一方で、個人の金融資産は増え続けている。日銀が発表した資金循環統計によると、家計が保有する金融資産は2017年3月末時点で1809兆円に達し、年度末としては過去最高を記録した。内訳は現金・預金が932兆円、保険・年金などが522兆円、株式などが181兆円、投資信託が99兆円だ。民間企業の金融資産も1153兆円で過去最高となり、そのうち255兆円が現金・預金である。実際、銀行や信用金庫などの預金残高は3月末時点でやはり過去最高の1053兆円に達した。
個人と企業を合わせて約1200兆円ものお金が、マイナス金利政策で微々たる金利しか付かない銀行などに預けっぱなしで、いわば“死に金”となっている。だから、異次元の金融緩和でもマイナス金利でも個人消費や企業の設備投資が増えず、景気が上向かないのだ。
なぜか? かねて私が指摘しているように、日本が世界でも類を見ない「低欲望社会」になっているからである。