そんなIさんが長く続けたのが、コンサート警備の仕事だ。いろいろなアーティストたちのコンサートをタダで体験できるばかりか、お金までもらえるわけだが、実際には苦労も多いようだ。
「コンサートを見る・見ないということでいえば、会場外に回されることは覚悟しておかなければなりません。仮に会場内に入れても、もちろんアーティスト側を見ることは許されませんし、客と目が合うと嫌がられるので、目線のやり場にも困ります。格好はスーツが絶対でしたし、警備中に姿勢を崩すこともできないので、そんなにラクなバイトではありません。誰もが期待するような『タダでライブを堪能』『アーティストに労をねぎらわれる』なんて、夢のまた夢です」
やはり好きなアーティストのライブを楽しむのは、チケットを買うのが一番のよう。警備の仕事では、印象に残る珍事件があったそうだ。
「そのコンサートは、普段はスタンディングの会場にパイプ椅子を置いて行われるものでした。そこでスタッフがパイプ椅子を並べ、さらに椅子ひとつひとつに席番号が書かれたシールを貼り……という形で行われたのですが、シールの粘着力が弱かったようで、席についた客の背中にシールがくっつく事故が続出。席に戻れなくなる人が続出して大混乱になり、コンサートの開始時間が遅れました……」
設営と警備は管轄が異なるのでIさんに非はないが、客が怒るのも当然だと思い、客から怒鳴られたことも気にならなかったそう。コンサート警備と言えば憧れのバイトかと思いきや、やはりいろいろな苦労があるようだ。