ところが、財務省は投開票翌日の政府税調の総会に、満を持して60ページにのぼる所得税改革の説明資料を提出した。
一読して仰天した。そこには、サラリーマン、年金生活者など低所得の非課税世帯まで国民に広く網をかける所得税の増税メニューがズラリ並んでいる。“選挙に大勝利したのだから、国民に増税の請求書を回しましょう”と安倍政権に持ちかける内容である。
資料には各種統計や諸外国の制度との比較などが図表入りで詳しくまとめられており、とても1日や2日で作成できる代物ではない。財務官僚たちが最初から、選挙が終わるタイミングで提出しようとこっそり増税メニューをつくっていたことは明白だ。
所得税と消費税の二重取り
百歩譲って、公約の消費税増税は景気悪化の影響が大きすぎることから見送り、所得税を少し上げたいという提案であれば、まだ議論の余地はある。しかし、そうではない。経済ジャーナリストの荻原博子氏が指摘する。
「財務省は選挙中は所得税増税の話は黙っていて、勝った途端に言い出した。なんでこのタイミングかというと、2年後に消費税を上げると国民に重税感がのしかかるため、所得税を増税するとは言い出せなくなる。そこで先に2年後の消費増税を決定し、実施される前にドサクサで所得税を増税してしまう。そうすれば二重に税金を取れるという計算です」
安倍首相は「消費税率を予定通り10%に引き上げて税収を幼児教育無償化の財源に充てる」と公約し、国民との間でいわば消費税の“増税契約書”を交わした。幼稚園や保育園の高い保育料に苦しむ子育て世代には、“消費税が上がるのはつらいが、保育料が無料になるなら家計は助かる”と投票した有権者が少なくないはずだ。
しかし、選挙が終わると、増税契約書には国民が約束した覚えがない「ついでに所得税も上げます」という条項が追加されていた。まさに「騙し討ち増税」である。
※週刊ポスト2017年11月17日号